劇場公開日 2014年3月1日

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愛の渦 : インタビュー

2014年2月27日更新
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「愛の渦」三浦大輔監督×池松壮亮×門脇麦が成し得た共犯関係

「1回セックスしたらプライベートや仕事の話をして、2回したらもっと仲良くなって、3回したらケンカして(笑)」。池松壮亮は歌でも歌うように語り、そうした劇中の人物たちの姿を「人間の本能」と表現した。三浦大輔監督、そして門脇麦もその言葉に同調。映画「愛の渦」はまさに、性欲という人間の本能――三浦監督が言うところの「誰もが持っているスケベ心」――をむき出しに描いた作品。三浦監督は何を求め、若き2人はこの渦にどのように飛び込んだのかに迫った。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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料金は男性2万円、女性1000円。「セックスをしたい」という目的のためだけに豪華マンションの一室に集まった複数の男女が、滑稽なまでに性欲をむき出しにし、交わる一夜のさまを描いた本作。三浦監督が主宰する演劇ユニット「ポツドール」の公演で上演され「第50回岸田國士戯曲賞」に輝いた戯曲を、三浦監督自らの手で映画化したのだが、舞台と大きく異なる点がひとつ。舞台ではハッキリと見せなかった“プレイルーム”におけるセックスシーンを、映画では過激に映し出している。この点について三浦監督は、池松と門脇が演じた男女の存在をポイントに挙げる。

「別にセックスそれ自体やエロを見せたいわけではないんですよ。ただ、舞台のときはセックスの前後のみを見せることで、人物たちの“状況のリアリティ”を抽出したんですが、今回は彼らの“感情”に寄って撮っているんです。特に池松くんと門脇さんが演じた男女の感情がどう渦巻き、最後にどこに着地するのか。その起伏を丁寧につづりたかった。その感情はセックスの最中にも含まれますから、そこを見せるのは必然でした」。

だからこそ、この男女のキャスティングが非常に重要となった。池松について、三浦監督は「別の作品で見たとき、役者としての佇まいが他の人と全く違った。相手とのコミュニケーションで、その場で芝居をする――それは根本的なことだけど、それを信じてやっている人は実は少ないんです」と称賛を送る。

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池松もまた演出家・三浦大輔という存在に共鳴し、一も二もなく出演を決めた。「三浦さんの作品で自分の名前がクレジットされる。それだけでも何が何でも出たいと思いました。三浦さんが僕のことを知っていたということも驚きでした」。激しい性描写、しかも心の奥の普段は見せない卑猥さや欲望を露わにするような描写に対する戸惑いや躊躇はなかったのだろうか。

「よく聞かれますが、全くなかったですね。脱ぐことに何の抵抗もなかったし、やってみると手っ取り早いんですよ。裸になるというだけで画面が豊かになる(笑)。2週間ほど、部屋にこもって裸で撮影していると、変なテンションにはなりましたよ。感覚が麻痺してきて、スポーツをやっているような気がしてきて『さあ、やるぞ!』『よっしゃ!』という感じで(笑)」。

一方の門脇は、オーディションでヒロインの座を勝ち取った。地味な印象さえある女子大生が実は熱いものを秘めていて……というヒロインの見せるギャップが印象的だが、目の前の門脇も伏し目がちで、人前で話すのが苦手そうなタイプに見える。“清純派”と括られそうな21歳が、どのような経緯を経て今回の激しい役を務めることになったのか。

「マネージャーさんからオーディションを受けるかどうかはともかく、まず台本を読んでみてと渡されて、読んだら感想をということだったので『すごく面白いです』って電話したら、オーディションに行くことになって(笑)。どうせ受からないだろうって思いつつ、この脚本を書いた人はどんな人だろう? と好奇心だけで行ってみたんです。そこで三浦さんにお会いしたら一緒にお仕事したいって強く感じました」。

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この時点では「先のことはあまり考えてなかった(笑)」という。多くのヒロイン候補とじっくり時間をかけて面談してきた三浦監督をして「結局、2次審査に呼んだのは彼女だけだった」と言わしめる強烈な存在感を見せ、見事に合格。そして文字通り、身ひとつで撮影に臨んだ。「オーディションで『やります』と言った時は、『とにかくやるしかない』という感じだったんです。でもクランクインしてから、プレイルームのシーンの撮影がなかなか始まらなくて。役柄としても、ほとんどしゃべらずに下を向いているので、そうしているうちに『絡みのシーン、やっぱりやりたくないな』と不安になることもありました。でも意外と脱いでしまうと気にならなくて。湿っぽさがないんです。演じている間は頭のネジが2~3本、飛んでいるような感じでした(笑)」。

「エロく撮らないようにした」と三浦監督は語るが、池松はその演出を「残酷だと思った」と独特の言葉で評する。「それはものすごく信頼できるということでもあるんです。編集でザクザク切っちゃうところもそうだし、『エロく撮らない』という部分も本当にその通り。絶対にエロを期待されている中で、あれだけ女優のみなさんを脱がせておいて、その全てをひっくり返して“アプローチ”にしてしまう。残酷で好きだなと思いましたね(笑)」。

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冒頭の池松の発言そのまま、全く見ず知らずの登場人物たちは服を脱ぎ、体を重ねることで心の距離を縮めていくが、池松、門脇をはじめとするキャスト陣にも同じことが言えた。池松は、「麦ちゃんが『普段は人見知りなんだけど、脱いだら人見知りが治った』って言うんです(笑)。面白いですよね」と明かす。三浦監督はその告白に笑顔を見せ、「あのプレイルームで僕ひとり、服を着ていたんです。いま思うと、僕も脱いで演出すべきだったと、若干の反省があります(笑)」と振り返る。

さらに三浦監督は、なんとも愛おしそうにスクリーンの中の門脇の変化について言及する。「変な話ですが、門脇さんがどんどんかわいくなっていくんですよ。最初のマンションでの面接のシーン、かわいくないでしょ? 現場で見ていても明らかにかわいくなっていきましたね」。三浦監督が語った冒頭のシーンについて、門脇は「私も『ブサイクだな、これ』と思いながら見ていました」と苦笑しつつ、恥ずかしげに、しかし毅然とこう語った。「きっと、私自身にしか分からない細かい部分も含め、完成した映画を見たら『門脇麦成長物語』になっているなと思いました」。

少女の過激な成長、そして夜明けを迎えた彼らがどのような結末を導き出すのか。門脇の言葉を借りるなら、「乱交パーティをのぞいている気持ち、実際に参加している気分で」ぜひ堪能してほしい。

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