「スペクターはどこにでもいる」007 スペクター akkie246さんの映画レビュー(感想・評価)
スペクターはどこにでもいる
ダニエル・クレイグのジェイムス・ボンド第4作。前作までのシリアスな作風は、今作では失われているかのようだ。最後までみて、その原因がなんであるかわかる仕掛けになっている。再生と希望の物語になっている。死者は生きている、との文言が冒頭にあり、その意味を考えつつ見たのだが、幽霊クリストフ・ワルツだけでなく、これまでに死んできた殺されてきた人々を振り返る構成にもなっている。そして、MI6ビルが、自爆崩壊するごとく、これまでのお話を一旦白紙に戻して再構築しようという魂胆があるかのようである。それにしても、映像は美しく、そして優雅である。しかし、起こっていることは、ありえないようなカーチェイスであり、空中戦であり、列車内での格闘なのだ。なかなか死なないボンドや、しつこい敵のことを、映画だと割り切ることができないのは、まさに自分がそこにいるかのような錯覚を起こさせてしまう演出力だろう。オーストリア、ローマ、モロッコ、ロンドン、そしてメキシコシティでのロケ撮影はとてつもなく素晴らしい。女たちも美しい。しかしこれは、人殺しについての映画である。作品中で語られるように、殺す前にその人物について知り尽くす。その上でタイミングを見計らって適切な方法で殺すのだ。失敗すれば自分も殺される。あるいは、世界にとってひどいことが起きてしまう。単なるシリアルキラーではない、国家機関による暗殺。一方で、復讐と弱者を苛める楽しみだけのための殺しや拷問もある。タリウム、針刺し。死ぬことと生きることについて考えさせるには、やはりハッピーエンドよりは悲しい終わり方の方がよいのかとも思う。