「どこを切っても美しい、『カジノ・ロワイヤル』以降の作品を一つに束ねる圧倒的な大作」007 スペクター よねさんの映画レビュー(感想・評価)
どこを切っても美しい、『カジノ・ロワイヤル』以降の作品を一つに束ねる圧倒的な大作
前任のMから密命を受けてメキシコシティを密かに訪れたボンドは大規模テロを阻止、手に入れた指輪とスカイフォールに焼け残った写真に隠された謎を解明すべくローマへと赴き巨大な犯罪組織の存在を掴むが、やがてそれは自らの過去との因果を辿る道程であることを思い知る。
冒頭に奏でられる”ジェームズ・ボンドのテーマ”の澄み切ったサウンドを背景にして浮かび上がる”The Dead Are Alive”。死者の日で賑わうメキシコシティから始まるオープニングはテンション漲るワンカット撮影。さりげなく『ブルーサンダー』リスペクトを滲ませるシーンを経て幕を開けるオープニングタイトル。物語を俯瞰するイメージをふんだんに散りばめながら、壮大かつ流麗なオーケストレーションをバックにサム・スミスが歌い上げる“Writing’s on the Wall”の歌詞をなぞる荘厳な映像。前作『スカイフォール』で圧倒的な映像美で原点回帰を果たし、タイトルに宿敵スペクターの名を冠した本作は堂々たる風格。そこに映る全て、耳に響く全てに半世紀以上に渡って積み上げた007シリーズの歴史が詰まっているかのような圧倒的な存在感。ソリッドなストーリー展開と切れ味鋭いアクションシークェンスに彩られた濃密なドラマで約2時間半の長尺を全く感じさせない完全無欠の大作。撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマによる映像はとにかく全てのカットが精密で美しいので、オーストリアアルプスの雪景を堪能するためだけに鑑賞しても損はしないほど。さりげなく『カジノ・ロワイヤル』、『慰みの報酬』、『スカイフォール』をグサッと串刺しにするストーリー展開も鮮やか。制作スタッフへの感謝の念を丁寧に繰り返すエンドロールを眺めながら英国の気品とプライドが醸す余韻を堪能しました。