「良質の小説のような示唆に富むセリフに満ちている。」悪の法則 CYNDYさんの映画レビュー(感想・評価)
良質の小説のような示唆に富むセリフに満ちている。
「悪の法則」。リドリースコット監督。R-15。いや、社会人二年目くらいからがいい。全体でR-24くらいの内容。
日本人は物語に教訓を求めすぎる。
そうして、理解できないと傷つき、否定する。
共感があれば何でもよい。面白ければそこからリアリティのボーダーラインが生まれるものだ。
つじつまとはそういうものだと思う。なんとも利己的で個人的でいい。面白ければ・・・。
これ、もしかしてカルトになるかも。でも、一般的には薦められないなぁ。
ストーリーは複雑ではないが、キャラクターの役割を説明せずに進むドライなスタイル。
物語背景や現状、キャラクターの状況説明が少ないかわりに、小説のような示唆に富むセリフに満ちている。このスタイルがこの映画の代えがたい魅力。
この映画は「読む」映画。表情ではなく、示唆に富んだ比喩ばかりのセリフを読むことでかみしめるように楽しむのだ。
正直、字幕訳者は時間内の理解を選んだらしく、比喩表現を無視して短い文章で状況を説明する意訳を多用していた。
文学性に富む原語の表現は字幕スーパーに表されていなかった。聞き取りやすい英語なので是非堪能してほしい。
メタファーが意図する本能に食い込むセリフの不安の暗示は、すべて現実になるようしむかれている。
役者も主人公3人の他にブラピ、ブルーノ・ガンツやらチョイ役でERのジョンレグイザモやら、これまたERのゴラン・ヴィシュニックやらアンダードームのディーンノリスやら妖しいのがいっぱい出てくる。
ブラピはいかがわしさ満点で、マイリーサイラスのお父さんそっくりに仕上げてきた。
ラスト前シーンは、このいかがわしさをいかんなく発揮してくれる。
まるで小説を読むような映画。これで原作なしだから脚本力と演出力のコラボがスゴい。
ただ・・・映画館観客の1割はついていけなくて爆睡。ラストも不満お方たちが6割くらいはいる。
特に映画体力とか映画遺伝子とかは、タランティーノのようなオマージュや引用もないし妙な時間軸交差もないので全く不要。
クラッシュのような時間交錯因果応報サスペンスでもなく、ユージュアルサスペクツのような切れ味のあるミステリーサスペンスとも言い難い。ジャンル分けの難しさがある作品。
しいて言えばあれに近いか。キューブリックのアイズワイドショット。
シュニッツラーの不安心理劇。
でも。それを超えたセリフの示唆に目力が加わる。訳も分からず涙が胸の奥からこみあげる作品でした。
<ネタバレあらすじ>
メキシコ国境間の乾いた土地、太陽、悪徳なThe richの面々。
原題は「The counselor」。相談役、ということで。劇中では「弁護士」と訳されていた。
マイケル・ファスベンダー扮する弁護士。ファビエル・バルデムはエルパソの下水業者を隠れ蓑にした麻薬ディーラー。
ドラッグは中米内の原価とLAでの末端価格差がとても大きい。
カルテルから仕入れて安定供給すれば豪華な暮らしが約束される。
毎日がパーティの暮らしのディーラーの隣には銀のマニキュアと金の八重歯が光る謎の女。キャメロン・ディアス。 プールで泳ぐ肩にはネコ科の肉食動物柄の斑点タトゥ。
2頭のチータを飼い、Cat、と呼ぶ。野生が好きなのだ。本能の赴くまま。バイセクシャル。
そして、ファスベンダーは交際中のペネロペ・クロスに夢中。
午後2時。昼か夜かもわからない気怠い寝起き。
「七日で戻るから。」と白いシーツの中で女の股に顔をうずめながら語りかける。
「どこで覚えたの?そんなこと・・・。」と貞淑な彼女を辱めるR-15のセリフ。
愛する恋人に勝負をかけたギフトを。
宝石商は年老いたベルリン天使の詩。ブルーノ・ガンツ。
「宝石は欠点を評価していくもの。」とダイアモンドの4Cを手ほどきする。
レコメンデーションは3.9カラット、カラーはD、クラリティはVSだと説明する。
「ダイアモンドの最高級は何もないこと。光そのものが最上級。「欠陥」が少しずつ光を損ない、評価のポイントとなる。そして、警告の色を放つ。」
Sweet daiamond for your hand・・・。
ダイヤモンドは国際シンジケートのにおいがする・・・。
マイバッハを駆るファスベンダーは愛する恋人のために3.9カラットを買ったのか他の推奨品を買ったのかは明らかではない。だが、苦渋の表情。経済的な問題が最近起きたことを示唆する。
そして、麻薬カルテル関係者の古い親友ブラピに近づき、ハビエルとの闇商売を開始する。
ブラピは警告する。「俺は助言はできない。が、こんな警告を聞いたことがある。それを聞かせる「ここから先は来るべきじゃない。」と。」
ハビエルは銀の爪の女にハマりながらも不安を覚える。フェラーリをファックする女。
「表情の読めない女とは付き合うべきじゃない」と。「話すべきじゃなかった」と。
一方、キャメロンはプールサイドでペネロペと過ごす。
バイセクシャル。ペネロペの身体は何度も重ねた熱い夜を忘れられない。
「結婚するの。」
「指輪、外して見せてよ。カラーはG、クラリティはSV2、大きさは3.5もしかして3.8かも。」
肉眼視だけでズバズバとダイヤ評価を辛辣にあてていく。ブルーノ・ガンツが示した1ランク下ずつを正確に。
カルテル、シンジケート、銀行・・・。個人の情報を操り罠を周到に繰り広げ展開していくのは野生の狩猟本能からか・・・。
そう。全てはキャメロンが仕掛けた罠に皆がハマっていく。
だが、ラストを見る限り、計算を清算するような映画ではない。
これは本能の残酷と美しさを示唆とともに叙事にした詩なのだ。