「トリックで泣けてしまうなんて…」トリック劇場版 ラストステージ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
トリックで泣けてしまうなんて…
『スペシャル3』と劇場版の関係は、『スペシャル3』が劇場版への前振りになっていて、ラストで奈緒子が、突然予知能力に目醒めたとして、ムッシュ・ムラムラなど意味のないことを叫きながら終わるのです。ドラマだけ見ていると意味不明ですが、語っていることはすべて劇場版に繋がる伏線となっていました。
劇場版のほうは、シリーズ本流である呪術師との対決が軸になっているのに比べて、『スペシャル3』は完璧に、『八つ墓村』のパクリ。冒頭には堂々と湖で死体が足だけ出ているシーンも映し出されていて、これはもう確信犯的なパクリ。能力者との対決はなく、奈緖子がまるで金田一耕助になったかのような名推理で、水上家で起こった連続殺人事件の謎を鮮やかに解決してしまうのです。推理作品としては、なかなか考えられたトリックと犯人像でしたが、「トリック」の意味が違っていました。
『スペシャル3』を先に見てしまい、「俺のと違うなぁ」と思った人は、劇場版で王道をいくストーリーを堪能できますのでご安心を。そして「ラストステージ」と銘打ち“泣ける”の看板には偽りがありませんでした。
超能力はあるのかないのかというシリーズを通した一貫したテーマに、独自の結論を示しつつ、それでも科学万能と思い込みがちな文明国の思い上りを真摯に上田に語らせる点では、いつになく硬派で真面目なテーマ設定だったと思います。堤監督ならではの小ネタや仕掛けの数々がせりふから小物にいたるまで、これでもかというほど詰め込まれていて可笑しさもパワーアップしていました。でも、ラストに向けて意外や意外、いつもはジコチュウな奈緖子が自己犠牲の決断をするところで、雰囲気は一気にシリアスに。必死に引き留めようとする上田とのやり取りのシーンでは、胸をギュッと締め付けられる思いでした。まさか「トリック」でこんな気分にさせられるとは…。そんなお別れ感満載の演出に、鬼束ちひろさんが歌う「月光」が被さり、流れ込むエンドロールでは、過去の名シーンが花を添え、ああもう終わりになんだと思わず涙を誘われてしまいましたねぇ。
でもエンドロール後にも、映像は続きます。行方知れずとなった奈緖子の消息を求めて、超能力者たちへ懸賞金をかけた上田の元へ、ある自称超能力者が訪ねてきます。上田の前で披露したのは、なんとエピソード1の第一回で披露した奈緖子の封筒から100円玉を消すマジックでした。自称超能力者のマジックとシンクロして、第一回のときの奈緖子のシーンが重なり、それを見つめる上田の瞳がウルウルするのが重なっていくのです。『スペシャル3』のラストでどこにも引き取り手がなかったら、俺が面倒見てもいいぞというプロポーズめいた台詞をサラリという上田にとって、奈緖子がいかに忘れがたい存在であったか覗いさせるシーンでした。そのあといきなり終わってしまう結末については賛否が分かれそうです。ただ、本作が大ヒットすれば、また続編も不可能ではない終わり方なので、期待してしまいます。奈緖子の父の死の謎や『母の泉』でビック・マザーが残した霊能者に奈緖子が殺されるという予言など、やり残したことはあるので、ぜひシリーズ全体を貫く謎の解決を描き終えて欲しいところですね。
冒頭、奇術師フーディーニが妻に託した霊界の証明のエピソードと、ラストに柄にもなく超能力者に懸賞をかける上田の行動とが、しっかり繋がっているところも見事です初の海外ロケとなったマレーシアロケで規模の壮大さを見せつけてくるなか、緻密な伏線をエモーショナルに修練していく堤監督。どうしてもケレン味だっぷりな演出に目を奪われがちですが、その本質は『明日の記憶』『くちづけ』で見せた人情派なんだということを、本作でもしっかりと感じることができました。
物語は、上田が1908年にロシアで起こったツングースカ大爆発の謎とされる原因について講義を終えた後、貿易会社社員の加賀美慎一が訪れて、ある仕事を依頼します。後日上田は、詳しい話を聞くためにその貿易会社を訪ねてみると、まるで新興宗教のような会社であったのですが、今回そっちには突っ込みはなし。加賀美からの依頼は、同社が東南アジアのある国の秘境で、レアアースの採掘権を獲得したが、不思議な力を持つ呪術師がその土地は聖なるところと主張し、信奉する地元の部族が立ち退きに応じず困っているというのです。そして上田に現地に行って呪術師のトリックを見破ってほしいと依頼したのでした。
上田の話に、海外旅行ができると単純に喜んで奈緒子も付いていくことに。なぜか矢部刑事もお約束で合流し、ジャングルの奥地にある閉ざされた集落を目指します。ジャングルの川を上っていく雄大な俯瞰シーンが挿入されるオープニングで、気分はワールドワイドに。そこから一気に“トリックワールド”へと引き込着こまれました。
現地支社到着したふたりは、個性的な支社の面々に唖然とするばかり。でもそれ以上にインパクトがあったのが、対決するはずの呪術師でした。呪術師は、現地支社で医療を担当する医師の谷岡の難病にかかっていた娘を治療するなど、ニセモノとは思えない能力を発揮したのです。そんな呪術師に奈緖子が心を動かされたのは、呪術師が自分と同じ予知夢を何度も見たことです。それは、ツングースカ大爆発を彷彿させる大爆発が、今いる集落でも起こるというものでした。
やがてその予知夢が現実になりかけ、多くの村人が犠牲になりそうになったとき、果たして奈緖子はどんな決断をするのでしょうか…。
シリーズの最後を飾るのにふさわしい豪華キャストのなかでも、印象的だったのは水原希子のなりきりぶり。呪術師としての怪しさだけでなく、たどたどしい日本語で、現地人らしさも上手く醸し出せていました。また、加賀美役の東山紀之の普通な会社員ぶりも良かったです。カリスマの演技を普通に落とすことはなかなか難しいことだったでしょう。 あと劇中で山田奈緒子が、仲間由紀恵に似ているという台詞が何度も出てきます。そういえば何となく仲間由紀恵に似いているかもと思わしてくれるところが、彼女の演技力の凄さだと感じられました。完全にマルッと奈緒子に成りきっているのですからねぇ(^^ゞ