「はじめてのポドロフスキー」リアリティのダンス gatoさんの映画レビュー(感想・評価)
はじめてのポドロフスキー
女の子かと思ったポドロフスキー少年役の少年がやっぱり女の子に見えてしかたがなかった。いつも困ったような、ちょっとまぶしそうにしている表情がまたいいのです。
それにしてもポドロフスキーの語りはいい声でした。
物語の展開の息もつかせぬ感じ、幻想的な映像表現、音楽、どれをとってもすばらしいのでした。
当初は絶対的権威であった父が受難者となって放浪の旅に出てゆき、ぼろぼろになって帰ってくる。最後には年老いて髪も白くなった父が柔和な表情でうつります。旅を通して武装がほどけ、やさしさも弱さもにじみでる人間らしい人物になったのでした。ポドロフスキー少年の父親像の変遷が見て取れると同時に彼自身の成長が感じられる壮大な物語でした。
お母さんもとっても魅力的でした。台詞ぜんぶオペラなの、とやや違和感がありましたが、中盤からむしろ安心感を感じるようになるのでふしぎです。
前半で、ポドロフスキー少年とその父のせいで「(わたしは)みなしごになってしまった!」にはあっけにとられてしまいましたが、あとからしみじみ感じられるものがありました。娘から母になる心理的葛藤が描かれているように思えたのです。
そんな母が誰よりもたくましく、息子と夫をささえてゆくのです。
神はいないと言う夫に神は(ここ=心に)いるわと言うシーンは感動的です。映像的には過激な描写もありますが…。
そういえばR15だったな…と。なるほど。でも他の作品よりか刺激は少ないほうなのかなと思ったり。
両手の不具が罪の印や聖なる木工職人の口にした詩篇5、母のまじないが土着信仰のなにかと関連しているのか、鉱山労働者、感染症の患者の隔離(傘をかぶった黒い一団)の存在など、いくつも強く印象に残り、チリについてもっと勉強したいと思いました。
冒頭のかもめとさかなのエピソードが印象的です。喜びと苦しみは一続きにつながっている。浜に打ち上げられ苦しんでいる魚とそれを喜ぶかもめ。そこで喜んでいるのがかもめにかたよっていることに心を痛めた、といった言葉の断片が、映像とともにふと思い出されるのでした。
映画みたな、と感じられる力強い作品でした。