「DVDなどで二度見をおすすめします。」トランス ねことまとさんの映画レビュー(感想・評価)
DVDなどで二度見をおすすめします。
はじめに。
私は一回目は字幕でさらっと見て、二回目は吹き替えで気になったところだけ観たんですけど、この話については劇場で観るよりは見返しの利くDVDがおすすめです。
(字幕だと暗に意味深で、吹き替えだと内容的にわかりやすかった気がする。どちらで見てもいいけど、理解しやすいのは吹き替えかもしれません。)
まず、とても一回目観ただけでは頭の中を整理できない…。
ゴヤの『魔女たちの飛翔』がオークション会場から強奪された事件に端を発する話。
序盤から主人公が語り手として登場する時点で、まず観るものは主人公サイモンを疑うし、〝なんだかこの話は二転三転しそうだぞっていう〟もんです。
しかし、それすらも計算のうちなんだね。
サイモン、彼の借金を肩代わりしてくれた知的犯罪者のボス フランク、彼が犯罪者だと知った上で協力を申し出てくる心理療法士エリザベス。
…話が進むにつれ、絵画の行方というよりサイモンの記憶の中や心理世界に比重が置かれてきて、現実なのか?仮想世界のことなのか?観ている側は大混乱です。
絵画の行方も3人のうちで一番腹黒いのは誰なのかも探るけど、男女の関係も絡んで着地だきるのか?…と心配になる。
結果から言えば、着地するし、映像に惑わされるけど、実はそんなに複雑なものでもない。
結局は男女のもつれから来る復讐劇というべきか…。
しかし…現実はどんなに有能な心理療法士でもそんなことまでできないだろう〜!
(たとえサイモンが希少な5%の暗示が残るタイプの人間だったとしても)
…と、ゆーかそこまで出来るとしたら怖すぎる。
万能心理療法士エリザベスの一人勝ちや意外といい人なフランクとのその後の関係を観るものに委ねる最後は良かったけど、主人公なのに見終わったあとのサイモンへの感想と言えば…『サイモン、最低だな…』と、これに尽きる。
(見終わったあと、エリザベスやフランクに味方する人が多いのではなかろうか?)
しかし…腑に落ちない点もいくつか残った…。
赤いアルマーニに惹かれる直前、あんなにタイミングよくメールが来るなんて…?
いつ絵画を盗むかもわからないのに、どこかでずっと見ていたのか?
または、記憶を失わなかった場合、どうやって絵画を受け取るつもりだったの?
…うーん、うーん。
しかし、劇中の『人は記憶を糸のように繋げて自己を保っている』っていうあの一言に尽きるな。
あなたが思っている現実が、他の人が記憶しているものと同じとは限らない。
そして、それが本物なのかも…。
それを視覚化したのがあの混乱を極めた美しい映像なんだろう。
くしくも、盗んだ絵画はサイモンの愛する聖なる昔ながらの絵画ではなく、近代絵画の先駆けゴヤのもの。そして『魔女たちの飛翔』ときたもんだ。
冒頭のレンブラントのように、劇中の主役こそ、全体像を拝めないとは…皮肉にも無駄がない。
腑に落ちない細かいところはある分星三つですが、二度見の価値は十分にあります。
今回の役的にはひたすら依存症の駄目男だけど、好青年も振り切れた悪い顔もできるジェームズ・マカヴォイ、もっといろんな役で見てみたいもんです。