「エリスはいい大人になる。いい男になる。」MUD マッド マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
エリスはいい大人になる。いい男になる。
14歳、流れに飲まれやすいくせにツッパってみせる年頃の少年の物語。ちょっと怪しげで危険な匂いに惹かれる年頃でもある。
今では考えられないかもしれないが、家のバイクを乗り回し、手製のイカダで沼に漕ぎ出し、誰のものかわからない掘っ立て小屋を自分の基地にして遊んでいた10代前半の頃を思い出しながら観た。
マシュー・マコノヒーが演じるような男に不用意に近づくエリスやネックボーンみたいな少年がいるはずがないって思う人もいるかもしれないが、親とは違う大人が放つ怪しい匂いに寄り添っていたい気持ちは共感できる。一歩、大人の世界に踏み込んだ達成感があるのだ。
親は子に現実を教える。エリスの父親は、仕事は遊びでないこと、収入を得ることがどんなに大変なことかを説く。自分より少しでもマシな人生を送るよう願っているのだ。
けれども、この年頃の少年は冒険を好む。大人が危険と思うこともそうは感じない時期がある。
背伸びしたひと夏の経験は、ほろ苦い思いと懐かしさを伴って、その後の糧になる。
エリスはいい大人になる。きっといい男になる。
思い込みと勢いで行動する時期が少年時代の一過性のものに終わらずに歳を重ねたのがマッドだ。一途だが物事を客観的に判断できない。少年から見たら大人の男だが、酸いも甘いも知った向かいのボートハウスの老人(サム・ペキンパー)から見たら子どもと同じだ。
大人の世界に一歩踏み出した少年、大人になりきれていない男、そして老いても頼れる男。スタンダードな取り合わせだが、世代を超えた男たちの絆が川面をそよぐ風のようで心地いい。
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