劇場公開日 2013年8月10日

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最愛の大地 : 映画評論・批評

2013年8月6日更新

2013年8月10日より新宿ピカデリーほかにてロードショー

紛争下の性暴力にメスを入れた、アンジー怒りの監督デビュー作

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今年6月、国連安保理でスピーチを行い、紛争下の性暴力に対する国連の無策ぶりにカツを入れたアンジェリーナ・ジョリー。同じ問題を、彼女はこの初監督作を通じて世界に訴えた。政治的なメッセージがみなぎる意欲作だ。

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を背景にした物語は、セルビア系ボスニア軍の捕虜になったムスリムの女性たちが、基地に監禁され蹂躙された史実を下敷きにしている。自分が兵士の夜の相手に選ばれないように、身を固くして祈る女性たち。聞き取り取材に基づく描写がリアルだ。

中でもショッキングなのは、ボスニア軍とムスリムの戦いの場に連れ出された女性たちが、人間の楯に使われる場面。戦時下において、女性が道具としかみなされない状況が、ここにうまく集約されている。

全米の批評には、ムスリムを被害者、セルビア系を加害者に据えたドラマを「偏っている」と批判したものもあったが、劇中には、セルビア系の将軍の母がムスリム武装団に殺された逸話が挿入されるなど、女性が犠牲になる状況はどの民族でも同じことを示すような目配りがされている。

むしろ賛否が分かれると思えるのは、後半の展開。基地から脱走したムスリムのヒロインが、性を食い物にされる立場から一転、自身の性を武器にして戦う道を選ぶところだ。女性を被害者のままで終わらせない肉食系な作劇は、さすがアンジーと褒めるべきなのだろうが、ヒロインの悲劇性が薄まった分、紛争に巻き込まれた人間の理不尽な思いも伝わりにくくなった点は惜しまれる。とはいえ、問題提起力は十分。鑑賞後には、「ブコバルに手紙は届かない」「サラエボの花」「セイヴィア」など、旧ユーゴの紛争を背景に女性の問題を扱った映画を見直したくなった。

矢崎由紀子

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