劇場公開日 2013年9月13日

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鷹の爪GO 美しきエリエール消臭プラス : インタビュー

2013年9月12日更新
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FROGMAN&河北麻友子、「鷹の爪GO」で提示するさまざまな親子の形

深夜のテレビシリーズ、劇場マナーCM、劇場長編作と躍進を続ける「秘密結社 鷹の爪」。“地球に優しい世界征服”を目論む「鷹の爪団」が繰り広げる、歯に衣着せぬシニカルな笑いで火がついた。人気シリーズを生みだしたFROGMAN監督は、脚本、キャラクターデザインから主要キャラクターの声優まで、すべてを担っているというから驚きだ。劇場版第5弾「鷹の爪GO 美しきエリエール消臭プラス」は、人気作品を彷彿とさせる機械生命体が登場し、物語の舞台は島根県から宇宙へ。スケールアップした本作にどのような思いを込めたのか。FROGMAN監督、声優に挑戦した河北麻友子に話を聞いた。(取材・文・写真/編集部)

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悪のネマール帝国に侵攻されたゴゴゴ星。機械生命体のオキテマス親子は、ゴゴゴ星を救う予言の男を探し、地球にやってくる。同じころ鷹の爪団は、島根の神社で「身近な人が一人犠牲にならなければ、空から降りてきた恐怖の大魔王に勝てない」というお告げを受けていた。

本作は、「親子」「宇宙」をキーワードに動き出した。「最初は総統のお父さんやお母さんが出てきたり、宇都宮が舞台だったりと全然違う話でした(笑)」(FROGMAN監督)と幾度となく練り直されるなかで、鷹の爪団とともに本作を動かす重要なキャラクターとして、オキテマス親子が誕生。頼りない父親スマイルを支える娘ヨルニーの声優は、多くの候補が挙がるなか、河北が抜てきされた。河北は「(オファーを受け)ただただびっくりしました」と目を丸くしながらも、「(ヨルニーは)ロボットだけど中身は普通の女の子で、すごく人間っぽさが出ている映画だったので、ロボットということはあまり意識せずにお芝居をしました」。人間のように感情を表に出さない、機械生命体という難役に「どれだけ声でいろんな表現ができるのかというところが、すごく難しかった」という。「私はお父さんが大好きで、いまだに外を歩くときは腕を組んだり、お仕事から帰ってきたら絶対ハグもする。(だらしない部分など)いくら隠しても子どもって全部見えていて、わかった上でリアクションすると思う」と温かく見守るヨルニーさながらの愛情をのぞかせる。

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FROGMAN監督は、「俳優さんと声優さんって、お芝居のスタンスが違うじゃないですか。ドラマや映画のお芝居が上手だからといって、声優がうまいとは限らない」と声による表現の難しさを語る。これまでにも、さまざまなジャンルの著名人を声優に登用してきたが「どんなに慣れた俳優さんや芸人さんでも、声優になると緊張しちゃって、ふだんの面白さが出てこないことが結構ある」と説明。今回、河北のアフレコに不安があったことを明かしたながらも「昨今、アニメの吹き替えなどで炎上することがあるけれど、『鷹の爪』はFROGMAN一人でやっていることもあって、めったな出し方ができない。でも、河北さんが持っている天真爛漫さが、ヨルニーの天然な感じにピッタリで、最初の一言ですべての不安を払しょくしてくれました」と仕上がりに自信をのぞかせた。

同シリーズの劇場版といえば、バラエティ豊かな声優陣に加え、スクリーン右側に表示される予算ゲージや、プロダクトプレイスメントを逆手にとった大胆な演出が特徴的だ。本作でも、さまざまな企業のマスコットキャラクターなどを登場させ、FROGMAN監督は「申し訳ないけれど完全にギャグにさせてもらっています」とニヤリ。目指すは「僕らみたいなインディペンデント映画は、製作費集めというハードルがある。プロダクトプレイスメントはインディペンデント映画のひとつのやり方だと思っていて、(「鷹の爪」が)モデルケースになれば」と若手クリエイターへの新たな指針だ。そんなFROGMAN監督は、テレビドラマ「北の国から」など実写の世界から、アニメ界に転向した稀有な人材でもある。「少し前までは実写作品をつくりたいと思っていたんですが、最近あまりつくりたいと思わなくなってきました。40歳過ぎてからのデビューというのは、ちょっと遅いかな(笑)」と吐露しながらも、「僕はウッディ・アレンがすごく好きなので、ラブコメディはやってみたいんですよね」と展望を明かす。

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「鷹の爪」シリーズは昨年、NHK Eテレで放送が始まり、大人から子どもにアプローチする機会が格段に広がった。しかし、FROGMAN監督は「子ども向けだからといってシニカルさを抑えるつもりはない」と明言。「大人も子どもも楽しめるのはもちろん、なによりも、大人と子どもが一緒に楽しめる作品」づくりに苦心し、「大人が見れば何か気付きがあり、子どもは親に対する気持ちが変わってくれたらいいなという思いを込めています。最近、大人たちの次の世代に対する責任の果たし方がいびつになりつつあると思うんです。大人は責任を負わなければいけないし、若い世代は問題をわかりながらも、大人に任せてしまっている。腹を括って語り合おうということを訴えたいというも思いもありました」と心を砕いた。だからこそ、人間臭い部分を持ちながら、アニメでしか描くことができない要素が込められた「子どもから大人までみんなで見ることができる映画」(河北)が完成した。

2004年に発表したデビュー作「菅井君と家族石」から、“疑似家族”を描き続けてきたFROGMAN監督。本作でも、親子で楽しめる作品をテーマに、さまざまな「親子」の形を提示している。老老介護など高齢化社会の問題を指摘し、「血や夫婦のつながりじゃないと家族と呼べないと、不安な感じがするんです。仲が良い人や共通の趣味を持つ人がコミュニティをつくって、支えあっていく時代がきてもいいと思う。友だちや恋人といった疑似家族のような、関係の多様性を認めてもいいんじゃないかなって」と熱を込める。

さらに、総統をはじめとした“愛すべきだらしない男たち”に焦点を当てることで、親の不安も形にした。実体験を振り返り「親ってすごく不安なんですよ。親は、子どもが幸せに生涯を終えられるかどうかを見届けることができない。子どもはどんなに親孝行しても、親が先に死んでしまう。実は親子の関係って、最後は不条理だということも描きたいと思っていました」と総統と吉田くん、オキテマス親子らの姿を通じて、「頑張りすぎなくていい」というメッセージを投げかける。厳しい視点で社会を見つめ、歪みを笑いに変えてきたFROGMAN監督だから表現できる、親子の愛が映し出されている。

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