「なかなかの感動作でした」二十四の瞳 デジタルリマスター版 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
なかなかの感動作でした
総合85点 ( ストーリー:85点|キャスト:80点|演出:80点|ビジュアル:60点|音楽:75点 )
映画が始まってすぐの場面、村人と生徒の科白の棒読み具合が酷いし映像も音声も質が低くて、最初の印象は良くなかった。だけど物語が進むにつれてだんだんと話に引き込まれていく。
昔ながらの風景とやたらと流れる童謡が戦前の情景を映し出して郷愁感を醸し出す。原作にもあったが、この当時は女性が自転車に乗るだけで白い眼で見られ異端視されたという。そんな田舎の閉塞感を感じて窮屈で仕方がないが、それでも美しい素朴な日本を感じ取れるし、当時の人々の生活のいい部分も悪い部分もよくわかる。映画の中では、「この映画が製作されたのは物語のはじめは今から20年もまえのこと云々」という文が冒頭に出てくるが、21世紀から見ればわずか20年程度後のまだ戦後間もない時に制作されているわけだから、この時代の情景がひしひしと伝わってくる。製作者と出演者の多くがこの激動の時代を実際に生き抜いた人々だからだろうか、いかにも現代の俳優が昔を演じていますという感触がなくて、場面場面に登場する人物の様子や所作が自然だった。
そして何よりも教師と生徒との触れ合いが優しく悲しい。子供の教育は社会情勢と家庭事情により二の次にされざるえない時代の村で、幸せな時間を共有し自分を慕ってくれる生徒たちが、現代日本とは全く異なる道を歩まざるを得ない姿を目の当たりにした。そして高峰秀子演じる先生と同様に、彼らを心配してのめり込んだ。そして追い打ちをかけるように戦争が家族と生徒を奪っていく。よく反戦映画とも言われるが実際はそれだけにとどまらず、その時代の抱える社会問題を含んでいる。そしてなんといっても一人の教師の半生と彼女と生徒との間の繋がりが感情豊かに描かれている。
古い映画だし観る前はあまり期待していなかったのだが、この年のキネマ旬報ベスト・テンで「七人の侍」を抑えて第一位に選ばれたそうである。「七人の侍」ほど著名ではないが、いい意味で最初の期待に反して、これはなかなかの秀作であった。