「ブラックホール等特殊効果シーンは見事なのに設定や登場人物がいい加減すぎる」インターステラー 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
ブラックホール等特殊効果シーンは見事なのに設定や登場人物がいい加減すぎる
1 背景の物理学理論
地上の物理学はニュートン力学が解明し、宇宙の物理学はアインシュタインの相対性理論が説明し、目に見えない原子の世界の物理学は量子論が究明している。それらを統合する理論はまだなくて、超ひも理論等がその候補として注目されている――物理学の一般向け解説書にはそんなことが書かれている。
アインシュタインは相対性理論で、高速の乗り物や重力の大きな場所では時間の進み方が遅くなると言っている。
また、時空間に開いたワームホールの存在も予言しているが、これが利用できるなら、何十光年も離れた銀河にあっという間に移動できるという。場合によってはワームホールでタイムトリップさえできると主張しているのが、本作の製作総指揮に当たったキップ・ソーンというノーベル賞受賞の理論物理学者である。
ソーンはかつて、『コンタクト』のワームホールによる宇宙移動のアイデアをカール・セーガンにアドバイスした人物でもある。
2 ブラックホール等の驚異的映像
ということで、本作は世界的な物理学の第一人者が恐らくは面白がって、こうした実際にはまだ観察さえされていない宇宙の諸現象をトピカルに描いて見せた、いかにも映画らしい映画である。つまりストーリーはさておき、驚異的な映像を堪能できるのだ。
初めに出てくるのはワームホール。自然界では巨大なワームホールなど存在しえないので、本作では「誰かが土星の傍に置いた」wという設定になっている。仮に存在するなら球形だろうという物理学者の説通り、丸い穴ではなく球形である。
次にガルガンチュアなるブラックホールが登場。その周りを公転する惑星も巨大な重力の作用を受ける結果、そこでの1時間は地球の7年間に相当するという相対性理論が持ち出される。
このブラックホールに飛び込んでいくシーンが本作のハイライトだろう。輝きながら吸収される高熱ガスの光の奔流の中、宇宙船は加速によって引力圏から脱出していくが、主人公は入ったら何も脱け出せなくなる事象の地平面の下に呑み込まれ、やがて五次元存在に進歩した人類に救出される。そして娘の全時間を閉じこめた四次元立方体に迷い込み、そこから人類が恐らくは反重力装置で地球から脱出するために必要な重力データを送信するのである。
最後に主人公は土星近くの宇宙を漂っているところを、人間の宇宙ステーションに発見され、少女の頃に別れていた娘と再会。老婆になってしまった娘とほとんど歳をとっていない父親の主人公で「ウラシマ効果」を見せる。
ただ、五次元とか四次元立方体云々までいくと、ちょっと空想を逞しくしたという感じではなかろうか。
3 映画としての出来は?
本作のシナリオはノーラン兄弟が書いているが、何というか…いただけませんw
地球が戦争か気候変動かの結果、旱魃に見舞われ、全世界が食料不足に陥っているのに加え、植物の病気が拡大、死滅していくのに伴い酸素が乏しくなっていくため、遠からず人間は住めなくなるという設定である。
食料不足を補うためどの家も農業を営んでおり、NASAのパイロットだった主人公までトウモロコシを作っていて、どこも大きな砂嵐に襲われているというのだが…誰が考えてもおかしな設定だ。登場人物たちはろくに飢えているふうでもないし、世界的な食料不足というなら、そもそも個人農場などではなく、巨大企業が巨大農園や工場栽培などで、大規模生産しているはずだ。
人類救出計画はもっとおかしい。地球が住めなくなるのに備えて、NASAは密かに脱出計画を進めており、そのプランAは反重力装置か何かで大規模ステーションを宇宙に打ち上げるというもの、プランBが移住可能な天体に人間の受精卵を運んで種の存続を図るというものらしい。
で、前者に関しては反重力装置の出来る宛てはないのだが、NASAの最高責任者である科学者が勝手にぶち上げて、全員がそれに騙されている…って、いくら何でも酷すぎる。
その詐欺師のような学者が主人公たちの出発に際して、こともあろうにディラン・トマスの有名な詩を暗唱して送り出すというのでは、彼のファンにとってはたまったものではないw
"Do Not Go Gentle Into That Good Night "という詩は、死の床にいる父に「簡単に死ぬんじゃねえよ」と泣きながら呼びかける内容で、小生は次の部分が好きだ。
そしてあなた そこ悲しみの丘にいるぼくの父よ
どうかいまぼくを呪い祝福せよ あなたのあふれる涙で
有難いことにこの部分まで暗唱はされなかったw
とにかく、せっかくあの見事なブラックホールの特殊効果シーンを作ったのに、それを盛り込むドラマがスカスカというのは、何とも勿体ない話である。