蜩ノ記のレビュー・感想・評価
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派手さはないが非の打ち所がない時代劇
静謐な佇まい、美しい所作なども含め、非の打ちどころがない時代劇である。 派手さはない。されど、きちんと時代劇の脈々と受け継がれてきた系譜を、きちんと踏襲した素晴らしい作品。 原作は、第146回直木賞を受賞した葉室麟の同名小説。 これを、「雨あがる」「博士の愛した数式」の小泉堯史監督のメガホンで映画化したのだから、非の打ち所がないというのも納得できる。 役所広司演じる戸田秋谷は、前代未聞の事件を起こしたことにより、10年後の夏に切腹すること、その日までに藩の歴史である「家譜」を完成させることを命じられ、幽閉生活を送る。 あと3年となったある日、岡田准一扮する庄三郎が監視役としてやってくる。 それにしても、10年後に切腹を義務付けられた男が、どのような心持ちで1日1日を過ごしていくのかを、役所は説得力を帯びた静かな芝居で淡々と見せていく。圧巻としか言いようがない。
原田美枝子さん紫綬褒章受賞おめでとうございます
原作は『散り椿』の葉室麟 監督と脚本は『博士の愛した数式』『明日への遺言』『峠 最後のサムライ』の小泉堯史 側室との不義密通の罪で幽閉された御家人戸田秋谷とその家族 秋谷は切腹を命じられたが藩主念願の家譜編纂のため10年延期となった じつは秋谷は密通などしてなかった 世継ぎ争いで側室お由の方の子息が殺されたのが真相だが幕府にそれを知れては藩は取り潰し そこで藩を守るためお由の方の子息は病死ということにして秋谷は不義密通の濡れ衣を着せられ切腹することになったのだ 村での郡奉行と庄屋と戸田秋谷とのやり取りが面白い 源吉が不当に召し取られ拷問を受け亡くなる一連の流れは悲しい 秋谷が妻の手を握るシーンが良い ロケ地の一つに岩手県遠野市 遠野ふるさと村 南部曲がり屋千葉家 話の設定は不条理だがなぜかとても美しい 配役 藩主から家譜編纂を命じられた御家人の戸田秋谷に役所広司 家老の中根から秋谷の監視を命じられた檀野庄三郎に岡田准一 秋谷の娘の戸田薫に堀北真希 兵右衛門の甥で庄三郎とは幼なじみの水上信吾に青木崇高 秋谷の息子で薫の弟の戸田郁太郎に吉田晴登 農民の万治に小市慢太郎 万治の息子の源吉に中野澪 万治の妻に大寶智子 兼通の正室の法性院(お美代の方)に川上麻衣子 博多の商人の播磨屋吉左衛門に石丸謙二郎 郡奉行の矢野に矢島健一 庄屋に渡辺哲 兼通の側室の松吟尼(お由の方)に寺島しのぶ 羽根藩6代藩主で47歳で亡くなった三浦兼通に三船史郎 長久寺の和尚の慶仙に井川比佐志 羽根藩奏者番の原市之進に綱島郷太郎 羽根藩家老の中根兵右衛門に串田和美 秋谷の妻の戸田織江に原田美枝子
自分の為すべきことを見つけた男・家族の物語
涙が止まらなかった。 丁寧に作り込まれた、骨太の作品だと思う。役所さん、原田さん、堀北さん、岡田さん皆素晴らしかった。その中でも個人的には郁太郎と源吉が初々しく子どもらしく一番良い味出していた。岡田さんの殺陣が見事だった。 試写会後お見送りに立って下さった監督に「すばらしい映画をありがとうございました」と本気でお礼を言った。 だのに、時間が経って複雑な思い・しこりがゴリゴリと…。 秋谷は自死するわけではない、命を粗末にしているわけではないけれど、死を拝命することを受け入れている姿が、死を賛美しているような気がしてきて…しこりがゴリゴリ…。 命って何だろう。そんなことを考える。 『明日への遺言』の監督の作品。 『明日への遺言』も、死刑を覚悟で部下の罪を一身に背負いつつ、敵方がくれた助命のチャンスを蹴飛ばしてでも自分の信義を貫いた男を描いた映画。 この映画の主人公・秋谷と似ている。 自分の命をかけてでも、家族の悲しみ・苦しみまでに目をつぶってまでも、貫きたかったのは…?。自分の美学・生きざま。家族と共に生きる時間よりも、武士としての己を極める方が大事?理不尽な命令だけど、いずれ歴史がわかってくれるよ。その時恥をかかない生き方をしようと。 『明日への遺言』が法廷の中での論戦で、死をも辞さないが、主義を認めてもらって公平な裁判が行われて無罪を勝ち取ろうという可能性ゼロの賭けを仕掛けている主人公・岡田中将を描いているのに対して、 この映画では、秋谷や織江の葛藤はほとんど描かれない。娘・息子・庄三郎他が多少葛藤、行動するが、基本受け入れて耐え忍ぶ。 「一日、一日大切に生き、為すべきことを為す」 秋谷のような状況はなかなかないが、命の限りは誰にもやってくる。 黒澤監督の『生きる』のような余命宣告。もっと突然やってくる事故・災害etc。そういう意味では我々の命は有限ではないのだ。 そんな中で日々をどう生きるのかが大切なんだというメッセージを頂いたような気がする。 けれど、あまりにも美しくまとまっていすぎて、命を絶つのを承認しているようにも見える。 あまりにも死を受け入れる姿を美しく描きすぎていて、この映画を受け入れていいものか、心が乱れる。 「武士道とは死ぬことと見つけたり」ということか。 原作未読。「これまでにない完成度」と浅田次郎氏に評された直木賞受賞作。 だが、映画では、藩の情勢、主君を巡る陰謀?、如何にして秋谷が嵌められたか等のサスペンス系のネタは、ちらっと見せるだけでほとんど割愛、物語としての盛り上がりはない。 ひたすら、風景の美しさを織り交ぜながら、家族の有様を淡々と描いていく。というか印象がそれしか残らない。 黒澤監督の後継者のように語られる小泉監督。 黒澤監督の映画をすべて見たわけではないが、黒澤監督の映画にはもっと、人生・社会のダイナミズムが溢れている。人としての素晴らしさだけでなく、浅ましさ・欲・悲哀・滑稽さが溢れており、そこに強烈に魅了される。 小泉監督の映画をすべて見たわけではないが、人の・社会のきれいな上澄みだけをすくって映画に映し出しているような。現代のお伽噺を綴っているような。だからか、素晴らしい映画だと思いつつも、後、一味足りないもどかしさが残る。 『明日への遺言』ではわずかな時間の中で決着がついてしまうが、この映画の秋谷と織江は10年の時があった。その中で、最期のお二人のシーンにたどり着いたのだろう。 お互いのいたわり合い。確かな家族の結びつき、信頼。そんな印象のみが、風景の美しさ、所作の美しさとともに、心に沁みわたり、温かさと、それゆえの切なさが拡がっていく。 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ≪蛇足≫ 直訴計画、源吉が拷問死してから家老の元への殴り込みは、1つの見せ場だと思うのだが、凄味がない。緊張感がない。所作は綺麗なんだけど、職員室での教員と生徒の喧嘩、居酒屋の喧嘩のよう。 ”愛”を中心テーマに据えたこの映画では役所さんが適役なんだろうけど、藤田まことさんか仲代達矢さん、山崎努さんの秋谷が観たかったです。無理だけど(T.T)。
美しい日本を観る
良い時代劇を観るといつも思う。 日本の美しい原風景、暮らしの中に根付く節度ある所作、人が心に何を持って生きるべきかなど、自分にとって大切なことに想いを寄せたくなる。 この映画もそうだった。派手なことは何もないけれど、男も女も自分を律して生きていることが、とても美しくみえた。 いい映画だった。
信念を貫いて生きる
本格派時代劇だが、既存作とは些か趣が異なる。 主人公は、ある事件で10年後の切腹とその間の藩史編纂を命じられる。とくると、主人公の死に様がテーマだと思ってしまう。 しかし、本作のテーマは死に様でなく生き様。切腹までの10年間、義を見てせざるは勇無きなりという信念を貫徹して生きる主人公の姿は清々しくて胸が熱くなる。 観終って心地良い余韻が残るのは、切腹に赴く主人公の顔に10年という限りある生を全うした者の充足感があるからだろう。人生も概ね80年の期限付き。悔いなく一生懸命生きねばと思う次第である。
人としての佇まい
不条理な状況で後十年という命 納得のいかない時代 武士としての佇まい 人としての凛とした行動が 気持ちが正される 役所広司の穏やかな台詞が す~っと心に入ってくる 短い時間の中で家族の為そして自分に 真摯に向き合う 堀北真希、岡田准一もよかった
強く、賢く、優しく、義理に厚い男と、その男に良い影響を受ける素敵な...
強く、賢く、優しく、義理に厚い男と、その男に良い影響を受ける素敵な家族や仲間達。 僕が目指す4〜50代のお手本のような人物だった。 切腹の切なさは現代人の僕にとっては理解しがたいけれど、それも尚良し。 どの時代も、その時代を生きた者でなければ理解し難いものであると思うから。
みな美しい
2019年4月7日 #蜩ノ記 鑑賞 #葉室麟 の #直木賞 受賞作の映画化。主要キャストの #役所広司、#原田美枝子、#岡田准一、#堀北真希 4人ともみんな品がある。理不尽な世の中でも義に生きることを貫くのは素晴らしく美しい。でも難しいだろうな!
長すぎ。
家老が思ったほど悪人ではなかったのと全くチャンバラの場面がない、という以外は想定通りのドラマ展開。この監督は黒澤明の弟子らしい。渇き。とは別人のような役所広司の演技。もう少し短く出来たのでは、という気もする。
泉堯史監督のメガホンで映画化した時代劇。前代未聞の事件を起こした戸...
泉堯史監督のメガホンで映画化した時代劇。前代未聞の事件を起こした戸田秋谷は、10年後の夏に切腹すること、そしてその日までに藩の歴史である「家譜」を完成させることを命じらる。主人公・秋谷役は役所広司。堀北真希出演作品。
タイトルなし
原作でも号泣させられた、拷問で死んでいく少年のエピソードには号泣。百姓の子の方が武士より余程立派なのだ。日本人は、ご先祖の大半は武士などではなく、殆ど百姓だったということを忘れているのでは。役所広司相変わらず顔デカ!
渋い。
「側室と密通した罪」として、10年後の切腹まで家譜を命ぜられた秋谷と。書道の時間に紙が飛んで、隣席の武士と刀を抜く喧嘩になって、秋谷を監視する役目になった庄三郎。 どちらも「左遷」された者同士。どことなく哀愁が漂ってました。 秋谷が書いている「蜩ノ記」。その意味を庄三郎が問うと、「ここは蜩がたくさんいる。それと、私もその日暮らしじゃ」ってにっこり微笑む秋谷を見て、この人にはすべてよきも悪気もひっくるめて、ここにいるのでは?と感じます。そんな懐の広さ。 庄三郎も一つ屋根の下で暮らすうち、秋谷家にすっかりなじみ。中でも元服前の息子・郁太郎に、太刀さばきを教えたりなど、兄貴的存在になっていくのが、秋谷にも心強い存在になっていくのがわかります。 「秋谷家にいるようになったら、すっかりそっち寄りになったのお」と庄三郎は上役に言われます。それは秋谷が、左遷された先で農民たちとともに生きる姿とも重なります。最初は「武士は畑には入りませぬ」なんて言っていた庄三郎だったのに。 心が広い秋月役。役所広司さん以外できないでしょ。それくらいハマってました。庄三郎役の岡田准一さんも、控えめでいてやる時はやる。なかなか良かったです。
江戸期の武士
戦国時代ではなく江戸時代の武士の概念と言うべき映画 何の為に生きてるのか考える事が不粋に思えてくる 役所広司はさすがやね いい映画やけど岡田准一演技がこの映画を軽くしてしまってる 多分小説の方が数倍重く面白いんやろな
悟ったような人々ばかりが非現実的
総合70点 ( ストーリー:70点|キャスト:70点|演出:70点|ビジュアル:75点|音楽:70点 ) 登場人物の多くが何か悟りでも開いたかのように、強い意志を秘めながらも静かな喋り方や立ち振る舞いをする。そして彼らはとても純粋で一生懸命である。それがこの作品の雰囲気を形作っているのだが、同時にそれがどうにも嘘っぽいとも思えた。人間の持つ様々な感情や欲望からくる人間臭さが綺麗に浄化された、まるで作品のために人格を加工でもされたかのような純粋で善良な人達ばかりなのには、観ていてどうにも疑問を持ってしまう。 小泉監督は『雨あがる』もそうだったが、登場人物をそのように描きたがる傾向があるようだ。複雑な事情がある社会と悪があるのはいいが、その中で善がとことん善な存在になっているのは現実的ではない。どうも綺麗事に纏め上げようとしている意思を感じる。そして淡々としていて地味。 そうは言っても登場人物はそれなりに魅力がある。岡田准一は一番いい演技力を示していたし、役所広司も安定の存在感だった。生き様にも映像にも日本の美を感じさせる全体の質感は良かった。質感の高さと綺麗事が混ざり合って同居している印象。
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