「義を見てせざるは勇なき也」蜩ノ記 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
義を見てせざるは勇なき也
直木賞を受賞した葉室麟の小説の映画化。
10年後に切腹を命じられた武士。その日まで監視を命じられた若き武士。限られた時の中で、日本と日本人の真髄を描く。
清く正しく格調高く。
派手なシーンは無く、淡々とした語り口。
何処までも品行方正で、かえって苦手な方も多いだろうが、自分にとってはドストライク。
秋見るに相応しい日本映画の秀作。
ロケーション、四季の映像、音楽、美術、所作から言葉遣いに至るまで、一つ一つが丁寧で美しい。
小泉堯史監督は、黒澤明からしっかりと時代劇の精神を受け継いだようだ。隅々に、本格時代劇のこだわりを感じる。
良作多い監督作の中でも、ベストに挙げられるだろう。
もはやあれこれ言う必要は無い。役所広司は、出演作品も演技も外れ無し。
岡田准一も引けを取らぬ名演。
歴史好きなだけあって、殺陣も所作も佇まいも見事。
それにしても、時代モノがよく似合う。
間違いなくジャニーズで演技力はピカイチだ。
原田美枝子と堀北真希はそんなに出番は多くない。
出過ぎず、控え目な立ち位置が当時の女性の姿を表している。
ストックホルムシンドローム…という訳ではないが、長く時を共に過ごせば、相手に情が移ってしまうのは必然。相手が高潔な人物なら尚更。
監視を命じられた筈が、切腹させられる真相を探り、救おうと奔走する。
その理由とは、何と理不尽。
理不尽なのは、村で起きたある事件も。
一人の少年が命を落とす。
よく時代劇の世界を古き良きいい時代だと言うが、これは語弊に思う。
藩の不正と隠蔽、百姓の苦しみ…この縦社会の不条理は、現代社会と何ら変わりない。
古き良きなのは、この時代に生きた人々の心にある。
師と仰げる者への礼節と忠義。
子は父を尊敬する。父は子を誇りに思う。
妻は夫を信じる。多くを語らず手を握り、夫婦愛が凝縮されている。
友の為に命を懸ける。
相手を思い、相手の為に何が出来るか。
一日一日死が近付き、目前にしながらも、誇り高く生きる。
義を見てせざるは勇なき也。
人の鑑となれるか。