「父性の創造。」スティーブ・ジョブズ(2013) ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
父性の創造。
彼がこの世を去ってまもなくNHKでスペシャル番組が放送された。
おそらく彼の人生は映画化されると(当たり前のように)予感したが
まったくその通りで、その頃すでに映画化の話は持ち上がっていた。
じゃあこの番組を録画しておいて、映画化されたらもう一度見ようと
ずっと温めてあったので、映画鑑賞後にもう一度じっくり見てみた。
映画で描かれなかった彼がTV画面に広がって、終いに号泣した。
先般公開されたM・ザッカーバーグ映画のように、人格に矛盾のある
人間を掘り下げるテーマが大好きだ。立派な経営者が立派な媒体を
開発するのではないところが最大の魅力である。
ジョブズの場合は、生後まもなく養子に出され(実親は未婚の大学生)
自分は捨てられた子供だという執念がずっと彼について回るのだが、
その後できた自分の子供を認知しなかったことは実親とよく似ている。
一般家庭に汎用コンピュータを、老若男女が使うことのできるものを、
と謳いあげているにも関わらず、家族の在り方がまったく分からない。
元・恋人に対する仕打ち、自分に異を唱える人間を容赦なく罵倒・解雇
する冷徹さは、ひょっとして親譲りなのかもしれないな、とさえ思った。
だがそんな彼の創造力の豊かさは25年先を見据え大ビジョンを描く。
それを着々と実現させる実行力に於いて、誰も右に出るものはなかった。
普通技では出来ないことを次々と成し遂げていく彼を凄いと思うのだが
彼は自分が発明者ではないことを明言している。優れた先人の技術を
利用する(盗用という意味でなく)ことによって、新たな製品が開発できる
アイデアをこれだけ魅せる人って今までいなかったんじゃないだろうか。
経営面では失敗を繰り返した彼が、晩年に築いた温かい家庭。
死ぬまで仕事一辺倒だったかもしれない彼が、やさしい笑顔を見せた
ことが(映画では庭いじりのシーン)とても嬉しかった。彼は家族の為に
自身の技術を発揮し、喜ばれたことが何より嬉しいとTVで語っていた。
人格面での成長。父性の在り方。奥さんの影響はかなり大きい。
認知しなかった娘・リサを引き取って、当時は一緒に暮らしていたらしい。
映画では本当に一部だけ(仕方ないけど)というのが勿体ない作りだが、
A・カッチャーをはじめ、俳優陣はかなり頑張っていて申し分なかった。
実在した人間を描き切るのは難しいだろうが、例えば彼を全く知らない
人が観ても分かるように描いた方が、一般からの共感を得られたと思う。
今作では彼の一側面は見えるが、全体面が見えてこない。
ジョブズが開発した技術に人気が集まったのは、
使いやすい。分かりやすい。楽しい。面白い。ワクワクする…といった
一般人が欲しがるものを一番に考えて作られたからだと思う。
(ジョブズ&映画ファンとしては、ピクサー創設時の話も観たかったな)