「賛否の分かれる作品だろうが、個人的には好感が持てる仕上がりだった」スティーブ・ジョブズ(2013) Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
賛否の分かれる作品だろうが、個人的には好感が持てる仕上がりだった
「えぇ、どう見ても、このスティーブをアシュトンが本当に演じているの?」と疑いたくなる。
どこから見ても、マスコミで流れていたスティーブ本人の様にしか見えないアシュトンには、今迄の彼の作品から受ける、イメージからは余りにも、程遠いのに驚かされる。
そして、彼のその芝居の迫力に圧倒され、私はファーストシーンからあっと言う間にこの物語へとどっぷりと浸り、虜になる。
それって、もしかしたら、アシュトンのファンだから興味が涌いただけなのか?
兎に角、スティーブが完全にアシュトンに乗り移っているようで、恐いくらいだった。
それはまるで、2011年に、まだ50代半ばで逝ってしまった彼が、夢を追いかけようとする、世界の若者達に、夢の実現の仕方を伝授するべく、アップルコンピューターの始まりの話をしてやろうと言って、あちらの世界から急遽戻って来たかの様に、本当にマスコミに顔をよく出していた彼の姿そのものの、ビジネスマンとしての彼が出現していた。
それ故に、ビジネスマンとして驚異的な指導力と、行動力・カリスマ性を持ち合わせていた天才仕事人間の日常を見事にこの映画は描き出していたと思う。
と言うわけで、スティーブの仕事人間としての姿だけを取材しているドキュメンタリー作品を、再現フィルムで見せられているようである為に、人間ドラマとして考えると、この映画の出来は、何ともバランス感覚の悪い、突っ込みどころが満載の後味の悪い作品であった。
だが、ファーストシーンから描き出していた、彼のキャラは、初めは身勝手で、絶対に自分は知り合いになりたくない、ゲス野郎に見えていたが、映画の終盤には、彼の人柄にも理解を示す事が出来るような仕上がり加減になっていたと言う事に於いては、作品的には、やはり、ジョブズの人間的な魅力と苦しみや、葛藤と言う物がしっかりと描かれていたと言う事も結果的に言えるのかも知れない。
しかし、地位と名誉と膨大な資産を手に入れても、人間必ずしも幸せな、楽しい人生とは言えないと本当に、この作品を観ていると思い知らされる。
この映画の終盤、アップルに再び戻って来た、彼が「クレージーな人達がいる、反逆者、厄介者、物事をまるで異なる目で見る人達、彼らは、クレージーと呼ばれているが、本気で世界は変えられると信じているクレージーな奴こそ、この世界を変えられる」と言うシーンが有る。
この言葉は本当だろう。多くの凡人は、天才と呼ばれる才能を発揮した人間の恩恵に預かりながら、平凡に生きている。
人間にとって、どちらの人生を選んで生きるのが幸せなのか?その事もその人の生き方の価値観に因るのだろうし、才能の有無にも因るが、しかしスティーブは全速力で彼の力の限りを尽くして人生を走り抜けたのだから悔いは無いのだろう!