「前作のおさらいをしないで試写会に出かけたのは失敗」ハンガー・ゲーム2 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
前作のおさらいをしないで試写会に出かけたのは失敗
最終作の前編に当たる本作では、第75回記念大会とされて、出場メンバーも歴代の優勝者が出場し、闘技場の仕掛大規模にも一段とパワーアップしていました。
今回、監督がフランシス・ローレンスに変わって、手持ちカメラによる安定しない映像が改善されてずいぶん見やすくなったのも特筆しておきます。突っ込みどころ満載の原作の穴を、演出と脚本が見事を埋めて、エンターティメントとして楽しめるレベルに仕上げていることは評価できます。
但し、ティーンズが公開の場で殺し合わなくてはいけない設定は、いかにも欧米の狩猟民族の好みそうなテーマですが、やっぱりいいに付けボケに付け平和を愛好する日本人には人気が出ないのも納得です。それが引っかかって、個人的にはラストまで感情移入できずに、ネガティブな思いで鑑賞してしまいました。
類似作品が多々あるなかで、殺し合いのリアルさ、痛快なまでの残酷さにおいては「ハンガー・ゲーム」に足りない要素だと思います。ゲーム感覚的には楽しめないし、殺し合い自体に割かれた時間の割合は同様の作品に比べて少ないほうです。
特に2になって、出場者同士の殺し合いよりも、主催するキャピタルが仕掛ける無数のトラップからいかに生き延びるかということに重点が置かれて、もはやゲームといえなくなっています。
カットニスの殺害が目的のための処置であるのなら、国民周知のハンガー・ゲームに引っ張り出して、国民の見ている前で殺すことはないだろうと思うのです。
スノー大統領は、カットニスがいつか燎原を焼き払う革命の炎に成りかねないと見抜き、なんとか彼女を支配しようとします。でも支配できないなら抹殺しなければならず、かといって、処刑したのでは殉教者に成ってしまいます。かくして第75回記念大会は彼女にとって絶対絶命の処刑会場として計画されたのでした。
でももしゲーム中でカットニスが死んでしまったら、前作で暴動の起きた第11地区以上の激しい暴動が巻き起こることが起こるのに、なんで彼女をゲームに引っ張り出す暴挙にでたのか、疑問に思うのです。
ただ「ハンガー・ゲーム」には、残酷性を売り物にする類似作品にはない魅力があることも確かです。肝心なことは、こうした殺人ゲームに現実性を持たせてはいけないこと。作品舞台が、まるで「グラディエーター」を23世紀に置き換えたようなファンタジーの世界での話であることにしてしまっていることはいいと思います。
そのために、未来世界の視覚面での描き方は斬新な面を覗かせます。闘技場となる島は、深い密林に覆われていても、ハイテクを屈指した装備や仕掛を見せつけることで、あくまで未来社会での出来事なんだというエキスキューズをさりげなく表現していると思います。特に、今回は会場中央の円形の湖に浮かぶコルヌコピアに仕掛けられたトリップには、度肝を抜かれました。
余談ですが、そんなハイテクが屈指されたドーム状の会場だからこその弱点も実はあったのです。カットニスはその弱点をついて、自分を無き者にしようとするスノー大統領
の思惑を打ち砕きます。今回の妙味は、カットニスがハンガー・ゲームそのものに立ち向かっていくところにあります。カットニスはどうやってたった一人で、ハンガー・ゲームをぶっ壊すのか。ゲームメイカーのプルタークが仕掛けたトラップを逆手にとってしまうところはさすがというほかありませんでした。
カットニスの勝利は、どうやら最終二部作の後編に繋がっていくようです。この勝利で独裁国家パネムに虐げられてられてきた12地区の住民は蜂起へ向かい始めるようです。そのきっかけとなるのは、キャピタルによる核攻撃で徹底的に破壊され土に埋もれて存在しないことになっていた第13地区の登場。どうやらここが革命勢力の拠点となっていて、その女性指導者をジュリアン・ムーアが演じるらしいです。きっとカットニスも革命のシンボルとなって打倒パネムに立ちあがってくのでしょう。
さらに本作の魅力は、カットニスのビーターな青春ロードと描かれている点です。残酷な設定ながらも、カットニスはゲームの勝者となり普通の少女から国民的なスターへ登り詰めます。それは同時に独裁者と対峙する立場となっていくのでした。ただ妹を守りたくてゲームに志願した少女が、やがてジャンヌダルクのような12地区の国民を解放する女闘士にまで成長していく心の軌跡を綴った物語でもあったのです。
そして青春ロードには欠かせない愛と友情の物語もキチンと描かれていました。前回のゲームでピーターとの相思相愛を装って生還したカットニスでしたが、本当に思い合っているのは幼なじみのゲイルであることを大統領に見抜かれて「芝居を続けろ」と脅かされ、本当の気持ちを封印してピーターと結婚します。
複雑なのはピーターの気持ち。前作終盤で、ピーターは深くカットニスを愛してしまったため、ゲイルを忍びながらも自分との結婚を強要されたカットニスの悲しみをどうすることもできなかったのです。でも、カットニスもピーターの誠意ある愛情に心が揺さぶれて、まるで『トワイライトゾーン』のような三角関係に陥るのでした。カットニスの愛がどちらに落ち着くのか、最終作の後編が楽しみです。
とにかく前作のおさらいをしないで試写会に出かけたのは失敗でした。映画館へは、絶対に前作を見てからお出かけ下さい。まず基本的な世界観を知っておかないと全く感情移入できません。昨日前作をDVDで初めてみて熟々そう思いました。