「一つ一つのアイデアはスマートでかっこいい。けれど…」グランド・イリュージョン すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
一つ一つのアイデアはスマートでかっこいい。けれど…
◯作品全体
メインキャラクターのそれぞれの個性、技、マジックを見せる目的、そして真実。どれも魅力的だし、序盤で疑問に思っていたことがきちんと後半で判明する。マジックを見せる目的は特にそうで、私利私欲のために金をバラマいていたのかと思いきや金庫の製造会社にツケを払わせるためだったり、理由付けが上手だと思った。
だけれども、どれもこれもが個々に点在していて結びつけが薄い気がした。まずキャラクターの個性という部分がぼんやりしている。メイン4人が登場し、集結する冒頭はとても魅力的なのだが、集まった途端にそれぞれの個性が薄くなる。みんなが同じ方向を終始向き続けているから、それぞれの関係性は幕間でしか語られない。なぜ集結する前は金のために犯罪まがいなことをしていたのに義理人情的なマジックに集うのか、なぜ即席チームがバラバラにならず協力できるのか、というバックボーンをもっと語ってほしかった。
個人的に一番気になったのは孤立して表現された技だ。同じステージで見せてはいるけれど、それぞれがそれぞれの強みで連携している描写がほとんどない。アトラスが王道的なマジックを見せ、その傍らで助手っぽいことをしてるリーブス。別の場所で催眠術を始めるマッキニー。カメラにも全然映らないワイルダー。それぞれの持ち味はすごく面白いものを持っているのに交わらないのがもどかしい。一番面白かったのはワイルダーのマジックを使ったアクションシーンだったけど、案の定一人で戦ってしまっている。
さらに逃げるときはみんなめっちゃシンプルに走って逃げるし、その走ってる様子をカメラに収めちゃう。もっと優雅で、チームプレー的なものが見たかった気がした。
誤解を恐れず言うと、『オーシャンズ11』っぽいやつが見たかった。即席のチームだから足並みが揃わないこともあれど、それぞれがプロフェッショナルだから仕事の中で自分の技を発揮する。けれど技を見せるだけで終わりではなくて、その技の合間であったり、その技を利用して他の味方が別の技を見せる…というような。その仕掛けに至った過程みたいなのがバッサリ落ちてしまっているから、それぞれの技が決まったときの快感がない。終盤の種明かしのテンポの良さは楽しかったんだけれど、やはり物足りなさも感じる。
心揺さぶるマジックに出会ったときの衝撃を尊重したのかもしれないし、マジックの意図や過程を語るのは野暮なのかもしれないけれど、映画であり物語がある以上、そこをないがしろにはしてほしくない…と思う心残りな作品だった。
◯その他
・ローズとドレイの恋物語はシンプルにいらなかったなあ。仕事上での信頼関係としてのほうが爽やかだったと思う。
・ドレイ役のメラニー・ロラン、走り方をどうにかしたほうが良い…。凄いデキる感じで走ってるのに運動苦手な人みたいな走り方になっちゃってる…。
・完全に個人的な好みだけど、ワイルダーを軸にしたほうが面白かった気がする。『オーシャンズ11』のマットデイモンみたいなポジション。だけれどあそこまで足引っ張っちゃう感じじゃなくて、ワイルダーの目を通して他のメンバーの凄さとか真実を見ていくような物語。