「繊細な映像美と感情に迫る演出で感動のラストシーン」ジンクス!!! 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
繊細な映像美と感情に迫る演出で感動のラストシーン
韓国からの留学生ジホ(T-ARAのヒョミン)が、恋に奥手な同級生の楓(清水くるみ)と雄介(山崎)の恋のキューピットとなるべく、韓国式の恋愛成就法を伝授する、という本作。
ラブストーリーでありながら、主人公のジホはキューピット役に徹するというのが余りない設定でしょう。加えて冒頭はジホの恋人がデートの約束に急ぐ余り、交通事故で死んでしまうという、ショッキングなシーンからはじまります。
恋人の死を受けとめられないジホは、忘れるために日本へ3ヶ月の留学を決めます。
日本へ来て学生寮に入ったジホは、星座と血液型の相性がいいというだけで、厭がる楓につきまとい、強引に親友になって欲しいとせがむのです。相性がいいもの同志一緒にいれば、きっといいことがあるよというジホ。それがジンクスなんだと一方的に言って、楓を煙に巻くのでした。
そして楓の初恋の相手で、偶然同じ大学に入ってきた修一との恋のキューピットを勝手に押しうるのです。
迷惑がる楓に、一方的に押し売りする背景には、恋人と死別した悲しみを誰にも語ることができないジホの心の痛手があったのです。ジホが楓に教授する恋愛成就法は、すべてジホ自身がかつて恋人からしてもらったことばかりでした。
やがてジホのお節介は、楓ばかりか、楓に好意を打ち明けられず悩んでいた修一にも向けられます。双方が相思相愛なんだと言うことをいち早く知り得たジホは何でそのことを伝えないんだとヤキモキさせられます。案の定、ジホと修一が親しそうに会話しているところを楓に見とがめられて、誤解されることに(^^ゞ
楓と修一に恋愛指南するシーンが描かれていく中で、時々ジホ自身の楽しかったデートシーンが回想されます。ジホの過去が次第に明かされていくとき、バカ元気なジホがどんなに深い悲しみを押し殺してきたのか胸に迫ってきて、涙しました。
そしてラストシーンで、恋人の事故死で叶えられなかったデートを楓と雄介が代わりに再現してくれたとき、ジホも封印してきたその日の思い出を解放させて癒されるのでした。ロマンチックが、「これ、とってもダイジですぅ」と口癖にとくジホ。最後となってしまったデートの計画は、小雪が舞い散る夜のなかの本当に素敵なシチュエーションでした。
本作は、主人公が愛する人と死別したとき、どう乗り越えるかという物語でもあったのです。
その伏線として、寮母さんとのふれあいも感動的。若い頃に夫を亡くした寮母さん。夫との思い出を忘れようにも忘れないと大事にしまっている寮母さんの話にこころ打たれたジホは、彼氏を忘れようと嫉視でもがいていた自分に気がつかされるのでした。
日本への短期留学を終える日、楓と雄介は、クラスメートにも頼んで、大量のシャボン玉を、学寮から降らてジホを見送るのでした。
物語の途中で語られるシャボン玉の意味を知ってしまうと、涙が止まらなくなります。シャボン玉に込められたジホの素敵な思い出。そして、それを知っている楓と雄介らの優しさに触れて、感動のラストシーンとなること請け合いです。
それにしても主役のヒョミンの演技力は素晴らしいと思います。何事にもジンクスを持ち出して、事を進めてしまうジホの押しの強さは説得力抜群。何事にも男みたいにシャイで引っ込み思案な楓との掛けあいでは、機関銃のような台詞回しで大爆笑を誘います。コメディアンヌとしての才能もありそうです。
それが過去の回想シーンでは、一転してナイーブな感性を見せつけるのです。しかも、ジホがまだ恋人と知り合っていなかった時では、まるで楓のような堅物そうな女の子ぶりで、カメレオンのようにキャラを演じ分け、説得力のある演技を魅せてくれました。
凄いのは日本語への対応力。ヒョミンはK-POPアイドルT-ARAのメンバーとしても忙しく、撮影前の準備はまったく出来なかったそうです。もともと日本語が話せるわけでもなかったけれど、撮影用に努力して日本語のセリフを話せるようになったそうです。ものすごく大変だったと思うけど、彼女はすごく努力家さんなんですね。
そして熊澤監督の繊細な映像美と感情に迫る演出も素晴らしかったです。最近見た恋愛ドラマでは本作が一番でした。ちなみに熊澤監督の『おと・な・り』もお勧めです。 熊澤監督にとっては2006年の映画研究会を舞台に展開する淡い恋模様を描いた『虹の女神 Rainbow Song』同様、本作も映画に対する深い愛情に裏打ちされた物語となっていました。
劇中では『恋人たちの予感』『シザーハンズ』『きみに読む物語』『エターナル・サンシャイン』からの名場面を登場人物たちが再現し、恋の告白の予行演習を行うというシーンが登場します。「僕が大好きな映画の名シーンを選んだ」と語る熊澤監督は「本家に失礼にならないように、素敵なシーンにしたいと思って気を付けました」と東京国際映画祭で述懐したそうです。
ちょっと危険な場面もありますが、皆さんもぜひジホに見習ってマネしてみては。きっと恋のジンクスがいいことを運んでくれますよ。
あと余談ですが、ジホのデートには、素敵な音楽も欠かせません。当日聞いていたのは、リストの『愛の夢』でした。クラッシックのファンだったら、この演奏がトリハダがたつくらい至高の美に包まれた演奏であることを直感されるでしょう。誰が演奏しているのか気になってエンドロールを捜していたら盲目のピアニスト辻井伸行と分かって納得しました。