「「零士マルチバース」からの解放」キャプテンハーロック keebirdzさんの映画レビュー(感想・評価)
「零士マルチバース」からの解放
感想を言うと、日本から世界向けの宇宙SF CGアニメとして、極めて良くできていると思いました。全体的に浅いとか言われればそうかも知れませんが、建造物や機械デザインは流麗で、SF的架空世界説明も私には、「?」の連発なく受け入れられたので寧ろスムーズに感じました。
「一大宇宙叙事詩」の初映画化でもないのですから、これで良いのではないでしょうか。
一番のポイントとして、本作には“機械化人間と永遠に闘う宇宙戦士の浪漫”とか、“クィーンエメラルダス号が300宇宙キロ先の亜空間から唐突に出現!”とか“オレ合成ラーメンしか食ったことない”などといった「松本零士節」がなく、銀河鉄道999も飛んでこないことです。
もっぱら計算ちがいと思い込みを繰り返す一人の人間・ハーロックと、シャッター商店街の老町会長さんみたいなひたすら後ろ向きな地球の管理者が意地の張り合いを繰り広げます。本当の主人公は敵味方となる若者たちですね。
そしてテーマは、鑑賞前に当然思っていた「大銀河の圧政と反乱者」などではなく、殆ど「地球エコロジーと若者への世代交代」でした。
私的には例えば「アバター」のように、“無垢でエコな土着民族と美しーい環境を破壊する先進人類文明は悪!だから悪倒す‼︎”みたいな政治的エコ映画や、
稀代の悪作(ファンごめん)「ベクシル2077日本鎖国」の、“技術進歩ばかりに驕る日本国は滅びました、国土も全部平らな砂漠になりました、で「日本民族」も滅亡ね!”みたいな日本製の自虐的CGアニメ映画はご勘弁でしたが、本作ではその類の意図も感じず、案外簡潔なエコ度で寧ろ好感でした。
一方で従来の「松本零士マルチバース」での宇宙海賊に慣れ親しんでいる漫画ファンには、引き立て役に徹する本作のハーロックは裏切り、ニセモノとさえ映るかもしれません。
実は私も銀河鉄道999全巻全映画ハーロックエメラルダス全て見ましたし、宮沢賢治の銀河鉄道の夜さえ999との対比で見てしまうクチでした。ザ・コクピットも同様です。
ただコア零士ファンのお怒りを恐れず言えば、それらの底流にある「戦後昭和的な懐古、厭世観・反骨心の発露」みたいなものは、21世紀で世界と共存する日本や世界に売り込むアニメではもう措いておくべきかもしれないと思います。その点を本作は比較的スマートに成し遂げたのではと感じました。
こんな駄評を今ごろグダグダ言うのであれば、公開当時に劇場に行って千円なんぼか払ってちゃんと支援すべきでした。反省です。あらためて、簡潔な良作としてSF好きで未見の方のご鑑賞を推奨します。