「二流作家が見せる一流の根性」二流小説家 シリアリスト 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
二流作家が見せる一流の根性
原作はエドガー賞の処女長編賞候補作。
日本でも『このミステリーがすごい!』『ミステリが読みたい!』
『週刊文春ミステリーベスト10』といった賞で1位に選出!
と、鳴り物入りで公開された本作だったけれど、
いくら原作本が面白くても、小説と映画とでは勝手が違う訳でして、
物語の舞台を米国→日本に移した時点で色々と弊害も出る訳でして、
そういう″翻訳″過程での食い違いというか噛み合わせの悪さ
みたいなものを終止感じてしまう作品だった。
殺人鬼・呉井が赤羽を選んだ理由の分かりにくさ、
中途半端なタイミングの襲撃の数々(そもそも銃刀法違反)、
突然スゴいドライビングテクニックを披露するヒロインなど、
随所でスジ運びに違和感を感じたが、それ以上に違和感を感じたのがキャラクター。
いや、上川隆也は流されっぱなしの気弱な感じ、それと表裏一体の
優しい雰囲気が良かったし、武田真治のナルシスティックな
劇場型犯罪者っぷりも、やや大袈裟とは思いつつ楽しかった。
だがそんな役者の頑張り以前に、なぁんかキャラクターが
日本人とは微妙にズレてる気が。
ハイテンションでやたらと演出めいている犯人とか。
叔父のマネージャーを自負する商魂たくましい女子高生とか。
ああそうだ、いくら自分が崇拝する男の指示で会ったとしてもねえ、
自分の妄想を他人前であんなペラペラ喋る女性なんているかねえ?
まあそこは主人公もドン引きしてたか(笑)。
例のおじさんが連続殺人に紛れて妻を殺していたという終盤の
ドンデン返し(?)もなんだかなあ。
ハッキリ読めてはいなかったが、おじさんが初めから怪しさ満点だったし、
そもそも連続殺人と比べてインパクトが弱すぎてあまり衝撃を受けず。
数値で言うと 48″へぇ″くらい(ネタが古い)。
あとはね、″一流″の殺人鬼とその母の関係を描くなら、
″二流″の主人公と母の関係をもっと掘り下げて
主人公と殺人鬼の共通点/差異を際立たせるべきだったと思う。
一流でも、自分の才能を母と自分の為にしか生かさない男。
二流でも、自分の才能で多くの人を喜ばせたいと考える男。
この二人を対決させたのはその対比の為だと思えるのだけど。
さて、ここまで全然誉めてないですが、
ミステリーとしての″屋台骨″がやっぱりしっかりしているからか、
引き込まれる点が随所にあるのも確か。
呉井の撮った女達の写真が……とか、死んだ筈の母親が……とか、
身を乗り出すような展開もちらほら見られるし、
真相が見えてくるまでの過程はけっこう面白い。
前述のように、母と子の物語としても深みを感じる。
それに終盤、赤羽の放ったあの台詞も心に残っている。
「あんたと違って僕は二流でも堂々と生きてやる!」
あの台詞にはグッときた。
うだつの上がらない作家が初めて見せた意地。かっこよかった。
世の中で一流と言われる人間なんてほんの一握り。
二流な僕らは二流なりに、一生懸命生きていかなきゃだもの。
この物語で一番言いたい所って、そこだったのかなと思っている。
ん? 誰だ、いま「お前は三流」って言った奴はッ(←被害妄想)。
以上!
鑑賞しながら、『ああ原作は確かに面白いのかも』とか、
『演出や編集次第でもっと面白くなったかも』とか、
色々勿体無いと考えながら観ていた。
この原作、いずれ本国アメリカでも映画化されるのかしら。
そっちもいつか観てみたいっすねえ。
〈2013.6.16鑑賞〉