「なにはともあれ、やはり愛。」愛さえあれば ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
なにはともあれ、やはり愛。
あのS・ビアがラブロマンスを撮った!?と聞いて驚いた。
女ながらデンマークの社会派ともいわれる彼女、大好きな
女性監督の一人なので、ほぼ全作観ているが…今のところ
そんなお気軽なストーリーに出逢った試しがない^^;
…マジ?ちょっと楽しみね、なんて思って観てみたのだが
さすがは鬼才、皮肉も嫌味も十二分に効かせて描いている。
この主人公の女性が被る冒頭の悲劇を私の友人も味わった。
…ホントにもう、ど~してオトコってやつは(爆)
オンナがいちばん苦しんでいる時(妊娠、出産、病気、介護)
やれ自分が寂しいんだか、辛いんだか、知りませんけど
必ずといっていいほど浮気しますね(総てとはいいませんが)
これって本能なのかしら?動物的な生理的な衝動?
今作の主人公イーダも、長く辛い乳がんの治療をやっと終え、
(まだ完治ではない)今まで苦労をかけてきた夫と旅行を…と
思っていた矢先、家に経理のオンナを連れ込んでる夫と遭遇。
謝罪して元サヤかと思いきや、家を出た挙句、そのオンナを
娘の結婚式にまで連れてくるという、夫のバカっぷり。
まぁこの愛人の方も^^;笑えるくらいバカ女に描いているのが
却って清々しいくらいなので笑えるんだけど…。
イーダは娘の結婚式のため、夫の不貞を伏せて南イタリアへ。
空港の駐車場で偶然出逢ったのが、娘婿の父親フィリップ。
これがまた(元007だというのに)嫌味度100%の超ド偏屈男で、
ついにP・ブロスナンもイメチェンしたのか?と思うほど。
実は、亡くなった妻を今も愛する愛妻家…だけど性格が悪し。
息子との関係も、どうやらイマイチっぽいのだが…。
そして当の娘と息子も結婚式を前になんか雲行きが怪しい…。
様々な問題を抱える人間達が一堂に会した結婚式で、
思わぬ言動やハプニングが続出し、ビックリする結末を迎える
…と、大筋はこういう話なんだけれど、とにかく其々の会話や
やりとりのシチュエーションを巧く繋いであり、飽きさせない。
女の立場から見れば、イーダも娘のアストリッドも可哀想だ。
ここに出てくるオトコは皆してバカなのか?と思わせるくらい
皆が皆、情けない。だけど、そんなオトコを愛してるオンナも
また傍から見てみると、エラく滑稽なのだ。
自身が大病を患ったうえ、夫からあの仕打ち、さらに娘の義父
(になる予定の)からは、細かいことをグダグダ言われる。
そんでもって娘から、私ダメかも…なんて言われてしまったら、
どーすりゃいいのよ!?母さんもキレちゃう!ってやつ。
私がイーダでも、半狂乱になって、そりゃ全裸で泳ぐわよ!(嘘)
原題は「坊主のヘアドレッサー」なのだが、彼女の坊主頭が美しい。
ガン治療のため抜け落ちてしまった頭髪を彼女はウィッグで覆う。
顔は美人でスタイル抜群、おまけに性格も良い、そんな人間でも
ガンになるのだ。人生は皮肉だが彼女は明るく前向きに生きてる。
片や偏屈男のフィリップも、妻亡き後男手ひとつで息子を育てた。
仕事仕事で子供を可愛がる余裕がなく、色目を使う叔母に頼った、
それが叔母ベネディクテ(巧い)を誤解させる原因にもなるのだが、
脇で登場する総ての俳優にも手抜かりがない。各々のスタンスで
見事に修羅場を演じてみせる。その毒素が強いおかげで、主人公
のラブロマンスが際立ってくる。イーダは冒頭で女医に言う。
「夫はありのままの私が好きなんです」
でもそうじゃなかった。優しい夫の愛欲は別の方角に向いていた。
息子を追いかけ中庭に出たイーダにフィリップが言う。
「君は自分の美しさに気づいていない。君はとびきり綺麗だ」
これは外見の美しさ以上に、彼女の内面の美しさに対する賛美。
どうやらこの時点でフィリップは完全にイーダに参っている。
言葉のやりとりを物語のあちこちにゲームのように散りばめ、
愛という不確かな存在の方向性を観客に探らせようとする脚本。
確かにベタで大甘な存在にはなるのだが、
人間不信に陥った者を救ってくれるものも、やはり愛なのだ。
話を戻すと、後半でバラを撒いて妻にやり直そうと懇願する夫君。
例の私の友人宅でもそうなったらしい(ここまで一緒だなんてさ^^;)
優しい私の友人と今作のイーダが、それを受け容れたのかどうか?
なにはともあれ、私は彼女たちの幸せを祈る。
(乳癌といえばアンジー、不倫といえば矢口、あまりにタイムリーね)