「レモンがつなぐ、イタリアとデンマークの幸せな出会い(スザンネ•ビア」愛さえあれば cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
レモンがつなぐ、イタリアとデンマークの幸せな出会い(スザンネ•ビア
そういえば、数日前に観たのは「たとえば檸檬」だった。今日の本篇前の予告は「ローマでアモーレ」。レモンもイタリアも映画世界ではおなじみ。そんな素材をデンマークの俊英が掛け合わせ、ありそうでない、不思議な肌ざわりの物語を紡ぎ出した。
取り繕いの関係をやめて一人になり、孤独を受け入れる。スザンネ•ビア監督が、「しあわせな孤独」以来繰り返し描いてきたテーマだ。今回の舞台は結婚式。取り繕いの際たるものであり、結婚式に集まる家族のドタバタや軋轢を描いた作品は枚挙にいとまがない。同監督の「アフター•ウェディング」、近作では「アナザー•ハッピー•ディ ふぞろいな家族たち」、他にも「メランコリア」「レイチェルの結婚」「モンスーン•ウェディング」…。そんな中、本作が新鮮で成功しているのは、みるみるうちに輝いていくヒロインと、ビア監督作品の森に彷徨いこんできたピアース•ブロスナンの存在によるところが大きい。特にブロスナンは、尊大さと繊細さのさじ加減が絶妙。ぎすぎすしがちな物語に、あたたかみを添えてくれる。
一方、彼らを取り巻く人々は、相変わらずちょっとイタい。それでいて、愛おしい。何て身勝手でイヤな奴!つくづく困り者…と、ウンザリしたりあきれたりしながらも、「…とはいえ、自分も人のことは言えないか…」と、ドキリ、チクリと心が痛む。ビア監督作品の住人は、決して遠い存在ではない。むしろ、はっとするくらい近い。イヤな奴を演ってしまう彼•彼女にも事情はあるのかも、たまたま、そういう瞬間であり巡り合わせなのかも、そして、日常で出会う人々もまた…などと思いは広がり、気持ちが心地よくほぐれた。
それにしても、ヒロインが夫に作り続けていた「レモンプリン」はどんな味わいなのだろう? デンマークではおなじみのデザートなのだろうか。機会があったら、試してみたい。