「ツカミがないまま…」終戦のエンペラー うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)
ツカミがないまま…
『不屈の男 アンブロークン』がとても気に入ったので、ちょっと期待して見てみたら、非常にがっかりさせられた。
この手の映画にありがちな、歴史の誤認識、主義主張の押し売り、おかしなニッポン、なんかどうだっていい。そんなことを気にして映画を見ているわけではない。
主題が見えてこない。これが致命的だ。
一応原作があるみたいなので、そこでの描写と、映画とでは食い違いがあるのかもしれないが、主人公は、「10日間で天皇の戦争責任を問うに足るだけの証拠を見つけてこい」という使命を帯びて日本に来た。ことになっている。そして知日家でもあり学生の時日本人女性と付き合っていた。彼女は今どうしているのだろうか?生きているのやら、死んでしまったのやら。
で、彼の行動は、ひたすら関係者に会って話を聞くだけ。酔った勢いで酒場で暴れたりするが、派手な見せ場はほとんどなし。
例えば、破たんした自分の家族を救うためには、高額な報酬が必要とか、余命いくばくもない人生に絶望して、死ぬ前に歴史に貢献したいとか、命がけで守りたい女性がいるとか、映画の主人公ががんばる理由はいくらだってあるだろうに、この男にはそれがない。
昔付き合っていた女が静岡に住んでいるらしいから、空襲をしないように裏で糸を引いた(静岡は空襲されたが)ことを誰かに知られたら、まずいことになる。みたいな逡巡もない。それどころか、学生の頃も同じ俳優が演じているので、歳の差があり過ぎて、とても恋人同士には見えない。
映画的なツカミがまったくないのだ。これは見終わるまでつらい。
そして、もう一つ気になることがある。
この映画、誰に見せようと思って、誰が撮った映画なのか?
アメリカ映画なら、中村雅俊なんかキャスティングされないだろうし、もっとたどたどしい英語をしゃべってよかったはずだ。それどころか、日本人が日本語をしゃべるシーンには英語の字幕が入る。(たいていは、変な日本語で、向こうの日系の俳優さんがおじいちゃんに習ったような不完全な日本語。映画『ブレードランナー』で、「ふたつでじゅうぶんですよ」っていう変なセリフがあったが、あんな感じだ)じゃあ、英語でセリフを言う必要ないじゃない。
で、この映画、本当にアメリカで公開されたのか?ヒットする可能性はないだろうし、日本人以外の誰が見るというのだろうか?この手の書き込みで炎上するきっかけには本当になりたくはないのだが、いわゆる戦争責任について、日本映画では扱うことのできない、非常にデリケートな問題を、アメリカ映画の体裁をとって日本人が撮ったのじゃないだろうか?
だから、天皇が国を思う気持ちがあふれる言葉に胸を熱くした人以外、この映画が受け入れられる素地は無い。そう言い切れる。