「わかる人には必ずわかる時代劇」蠢動 しゅんどう イントレランスさんの映画レビュー(感想・評価)
わかる人には必ずわかる時代劇
40年間時代劇を見続けてきましたし、京都の撮影所にも勤務していたことある一時代劇ファンです。
公開初日にこの作品を観ましたが、見終わった直後の感想は「こんな映画を作る人がまだいるのか…」というものでした。見ただけでわかるような正義の味方もいなければ悪代官もない。シンプルなプロットでありながら、それぞれ登場人物の立場の複雑な描写。往年の作品を彷彿とさせるアングルやカラーディストーション、オールロケによるリアリティ溢れた背景設定など、活劇と呼ばれていたころのパワーを感じます。前島誠二郎監督は、「まさに激動の映画。真の劇場映画だ」とも言われていますし、高橋伴明監督も「久々に映画の本道を観た」とも言われているのもうなずけます。そんな言葉を裏付ける作品であることは間違いありません。
古典的なようで新しい、新しいようで古典的まさにそんな作品でした。
そういった意味では、かの中島貞夫監督が「時代劇にとって暴挙に似た試みが始まった。…風穴をあけるかもしれない彼の暴挙に、私は熱いエールを贈る」とおっしゃられているとおり、時代劇の新たな可能性を十分に感じることができる作品でもありました。
確かにバジェット面では大手にかなわないところもありますが、それを見事に補うだけの記号やコマンド、そしてなによりパッションが映像から読み取れます。映画ライターのじょ~い小川氏も「俳優、監督の熱気がカメラから伝わり、時代劇史上屈指の映像美に驚かされた。現代に見事に蘇った本格派時代劇」ともおっしゃられています。一緒に見に行ったフランス人のライターは、「ヨーロッパで上映されたら間違いなくヒットする」といっていました。
いわゆる受け売りの評論家気取り的な人たちや、時代劇は「黒沢明が好き」と言っておけば映画をわかってる風な人たち、はたまたテレビ局主体製作の映画風劇場上映型テレビ番組が好きな人たちからすると、なにがいいのか理解できない作品かもしれません。時代劇のこだわりがどこにあるのかを知るには、時代劇というジャンルの記号をどれだけ知っているかということになりますし、それを試すことができる作品でもあると思います。だからこそ高橋克彦氏の言葉を借りるとするならば、間違いなくこの映画は「未熟者は観なくていい」映画です。