「オチの見えるラブコメだけど、ファッションを見るだけでも見る価値はありそうな作品」タイピスト! 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
オチの見えるラブコメだけど、ファッションを見るだけでも見る価値はありそうな作品
フランス映画で以前大ヒットした『オーケストラ』と同じチームが取り組んだ作品だけに随所にコミカルなクスクスと笑いを催すシーンが満載で肩が凝らすことなく鑑賞できました。典型的なラブコメです。あり得ない出会いから、反発し合いながらも次第に恋仲となるけど、途中に喧嘩別れとなりながら、最後はハッピーエンドという王道をとっており、期待を裏切りません。そういう点では、この作品のラブストリーは始まってから、ラストの予想はだいたい想像がつくというものです。でも本作の楽しみ方は、そういう筋の奇抜さにあるのではありません。おとぎ話のようなファンタジックな恋物語ほど、我を忘れて感情移入してしまったりするものです。『ローマの休日』のように世知辛い現実を忘れるくらいの夢物語があっていいではありませんか。
ボッと出の田舎娘が都会に出きて就職し、そのボスとなる男が、超ハンサム。さらにはタイプライターの特訓を命じられて、いきなりそのボスの家で同居始まるなんて、本当に夢のようなお話しです。しかも親の遺産を受け継いだボスは、豪邸に住み、年代物のワインを飲み干すリッチな暮らしぶりときたら、世の中の女子は、すべからずうっとりすること必定の設定ではありませぬか。
それだけではないのですよ。フランス映画らしく、画面がとてもカラフルで、1950年代を感じさせるレトロな色調。そして主人公のローズが着るフリルのついたワンピースはどれも可愛くて、今でも流行りそうなオシャレなものときたら、無視できなくなるのではないでしょうか。ファッションを見るだけでも見る価値はありそうな作品でした。(試写会でも50年代のファッションショーが開催され、モデルにダレノガレ明美やKABA.ちゃんが登場しました。)
純粋に映画として評価した場合は、筋書きがちょっと強引。ローズを不採用としたのにも関わらず、上司ルイは一方的にタイプライター大会への出場を決めてしまうのですね。もちろんローズの才能を見抜いたとか、親友と大会への出場の結果予想で掛け金を張り合ったとか伏線は用意してありますけど、どうしても始めにタイプライター大会ありきという匂いがプンプンしました(^^ゞ
それに続く二人の微妙な同居生活。自分はタイプライター大会コーチ役だからと勝手に決め込んで、セクシーなローズに絶対手をつけないというルイの態度は、コミカルで可笑しいけれど、やはり男として不自然!反発しながらも、ツンデレよろしくルイに恋しているのがバレバレになってゆくローズが可哀想に思えるくらいストイックなんです。
ただ途中で、深紅のドレスを纏ったローズがルイの寝室にやってきたとき、「例外的対応」になってしまったのは多いに納得。何しろ、大きく胸をはだけたものすご~くセクシーな出立ちで、これにはルイもノックアウトされてしまったのです。
さて、それでやっとふたりの気持ちが通じたかと思いきや、タイプライター大会の国内大会で優勝した段階で、突然ルイはローズの元を去ってしまうのです。
かなり唐突な設定ですが、ルイにアメリカで開催される国際大会で優勝させるためには、自分が身を引いて集中させるしかないというルイの勝手な思い込みが、説明として語られてはいました。加えて、ルイの勝手な思い込みで別れてしまった昔の恋人のことも。ルイの恋人ととは、なんと今では親友の夫人に納まってしまっているひと。これも信じがたい設定ですが、その彼女とは当然しょっちゅう合うわけで、ある日ルイと昔話になって、にあなたという人は臆病な人間だとなじられるのですね。肝心な時に逃げてしまう人だと。そう言われると、なるほどローズと家族の前で婚約者だと紹介したのに、結婚が見えてきた段階で逃げてしまったのかなとも思えました。そのように、一応納得させるだけのエピソードは用意してあっても、何かが足りなくて筋書きの強引さが拭えないのです。
タイプライター競技についても同様の疑問を感じました。国内大会で優勝したローズは一躍アイドルに登り詰めるのですが、それほどにタイプライター競技というものが国民的な関心を集めるメジャーな競技だったのでしょうか。
まぁ、そういう突っ込みどころ満載ながらも、演出として優れているのは、単調なタイプライター競技を見事にショーアップして退屈せず見させてくれるところです。迫力すら感じさせてくれました。
面白いのは、タイプライター大会でしのぎを削り合う女の戦いぶりです。決勝戦は1対1の対面バトルになるのですが、闘志溢れる前年の優勝者は、ローズに向けて中指を立ててる“ファック・ユー”のボーズを見せ付けます。凄いライバル心です。こういうときの女の闘争心というのは、化けて出てきそうで、その怖さを窺い知ることができました(^^ゞ
主演のデボラ・フランソワは、とびきりキュートな笑顔と瞳のつぶらなさ、そしてコティッシュな男性の視線を惹き付ける力が凄いんです。あの強烈なオーラなら、モンローの再来とかランス版綾瀬はるかのようだと話題になるのも同然でしょうね。これからの活躍が楽しみです。