「クラシックだと思いきや、新作だとは!」タイピスト! うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
クラシックだと思いきや、新作だとは!
フランス映画に対する勝手なイメージ。「芸術的で、娯楽性に乏しい」という先入観を吹き飛ばしてくれた映画。
それも、何の予備知識もなくテレビをつけたらやっていたので、見ていたら、終わりまで見ちゃった。という展開の、掘り出し物。これは面白い。
そして見終わってから知った驚きの事実。この映画、クラシックではなく、クラシックのふりをした、最新作だったということを。
あいかわらずフランス製の映画って、女優を脱がせるし、ハリウッド映画に比べると、2割増しで女優が綺麗に見える。でも、そんなことどうだっていい。
気になったのは、この映画に漂う、恋愛と仕事に関する古臭い価値観。
それは、タイプライターという絶滅したマシンを扱い、むしろ現代にも通じる価値観(すなわち、タイピングの技術を磨くという切磋琢磨)を透かして見せたことと関係あるはずだ。壁にピンで留めてあるオードリー、マリリンは、古くても、損なわれることのない美しさのメタファーだ。
映画は、男と女が出会い、共通の目的に向かって成長していく中で、お互いを知り、惹かれあいながら結ばれる。良質のラブコメディのフォーマットを構成しておきながら、1950年代の男社会を濃厚に描いている。
あくまでも、女を選ぶのは男。
酒もあおるし、所かまわず煙草をふかす。
女はアシスタントで、職場の花。
技術や知識は学び取るものではなく、与えられるもの。
この映画の女優さんがとても魅力的に描いてあるのに比して、男のなんという紋切り型で愚かしく映ることか。
フランスでは、シングルマザー率が高く、女性の社会進出も高い。未婚率も出生率も高いという話を聞いたが、究極のオトコ不要社会を実現させつつ、この時代のノスタルジーに浸りたいということか。
それとも、この作品を通じて、現代にも適う価値感を描きたいということか。
そういう意味では、あえて昔を舞台にした、「コードネームU.N.C.L.E」が目先を変えたバディムービーであったように、ありきたりのラブコメディを避けただけとはとても思えない。特にローズの心理を丁寧に描き、共感を誘う演出は見事だ。
2020.9.3