「ウエルテル効果」スーサイド・ショップ レントさんの映画レビュー(感想・評価)
ウエルテル効果
なにかノリはディズニーのミュージカルアニメを見てるよう。ディズニーではこんな題材は絶対に扱わないだろうけど。
仮にも自殺というとてもデリケートなテーマを扱っているなら、真剣にそのテーマと向き合ってほしかったけど、中身はかなり大味。
自殺用品店を営む一家の物語で、店主の父親は目が落ちくぼんでいて見るからにアダムスファミリーのお父さん。子供たちも猫背で陰気な雰囲気。ただなぜか母親だけが肥えていて健康的。父親の名前がミシマって、三島由紀夫からつけたのか?腹切りとかのセリフもあったし。
そんな一家に新たに生まれた末っ子が超ポジティブな性格からこの一家に、そして世の中に変化をもたらすという物語。
なぜだか人生に絶望していて自殺ばかり考えていた長女が末っ子からのプレゼントや男性とのめぐり逢いでコロッと生きる希望を見出したり、長年自殺幇助のような行いをしてきた父親が自殺現場を目の当たりにして精神を病むとか、末っ子のたわいないいたずらで笑わされて改心してしまうとか、すべてが安直すぎる。ちなみに改心してクレープ屋を始めたのに店に再度訪れた客に毒を渡してどうするの、矛盾してるでしょ。
何か少しでも自殺を否定して生きやすくなるような考えが作品内で提示されればそれなりに見る価値はあったのかも。これでは本作を見て得られるものが何もない。特に自殺を考えてる人には何の救いにもならないだろう。そういう人が本作を見るとも思えないけど。
昔、「完全自殺マニュアル」という本がベストセラーになって読んだことがあったけど、様々な自殺方法や事例が紹介されていて、こんな本出して自殺者が増えたらどうすると散々たたかれていた。ただ、あの本を読んだ読者の中にはいつでも死ねるんだ、ならばもう少し生きてみようと感じた人も多かったという。
著者自身が生きづらさに悩んだ経験から、いかに人生を楽に生きられるか模索していたという人物。彼が言ういかに人生をやり過ごすかという言葉が印象に残った。何も人生肩ひじ張って生きなくてもいい。頑張らなくてもいいんだ、もっと楽に生きていいんだと肩の荷が下りた気がした。
せめて本作でもそのようなメッセージがあればよかった。海外のアニメは日本のものとは違いアーティスティックな絵柄が好きでたまに見たりする。本作も絵柄は気に入ったけど中身はほんとただのお話の域を超えられていない。原作はベストセラー小説らしいけどこのまんまの内容なら読む価値もなさそう。
自殺を扱っているのに内容が子供向け、というより子供だまし。絵柄がよかっただけに残念な作品。