「色や台詞を排した結果、より深くスクリーンに集中して見ることができました。」ブランカニエベス 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
色や台詞を排した結果、より深くスクリーンに集中して見ることができました。
モノクロ&サイレンスの本作は、デジタル全盛のこの時代に、全く時代に逆行する手法を用いて製作されています。けれども色や台詞を排した結果、映し出させる映像に、自ら色を与え、出演者の演技には自ら台詞を想像させて、より深くスクリーンに集中して見ることができました。無声映画の新たな可能性に衝撃を受けた傑作です。
東京でも新宿武蔵野館でしか上映されていない作品だけど、映画ファンならきっと本作の作品世界に陶酔できると思いますので、ぜひご覧になってください。
ストーリー展開もスピーディー。冒頭の主人公の父親のアントニオが登場する闘牛シーンから、いきなり激しいストーリーの流れで一気に本作の世界に観客を引き込込まれてしまいました。
アントニオはあり得ないアクシデントで闘牛に襲われて、瀕死の重傷を負ってしまいます。すると今度はその場面を闘牛場で見ていた母親のカルメンが急に産気づき、子供の命と引き替えに死んでしまうのです。アントニオは、愛する妻を亡くしてしまった悲しみからか生まれた来たカルメンシータを遠ざけて、自分の看護を担当したエンカルナと再婚。いっぽうカルメンシータの不幸はさらに追い打ちをかけて、今度は育ての親となっていたドナが病で倒れて死別することに。
エンカルナに引き取られたカルメンシータは、汚い地下室をあてがえられて、下女としてこき使われる日々を過ごすのです。
、エンカルナからは、絶対に行ってはならないと厳命されていた二階の部屋を恐る恐る覗いたカルメンシータは、生まれてから一度も会ってこなかった父親を発見。アントニオはカルメンシータを避けていたのではなく、エンカルナがふたりを徹底的に引き離していたことが分かります。父と娘の体面シーンは、台詞がない分、余計に感動してしまいました。
カルメンシータが大人に成長してからは、エンカルナは悪女ぶりを発揮。アントニオを事故死に見せかけて頃した後、不倫相手をけしかけてカルメンシータも無き者にしようと襲わせます。
瀕死のカルメンシータを救ったのは、小人の闘牛士軍団でした。カルメンシータは、襲われた際に記憶はなくしたものの、アントニオから闘牛士の手ほどきを受けていたことは体が覚えていたのです。そこで自らを“ブランカニエベス゛と名乗り、7人の小人の闘牛士たちとともに闘牛士となり、スペイン各地を巡業。やがて人気者となって行きます。
うん?
まてよ…ととと!
“お姫さまのような主人公”に“7人の小人”、“邪悪な継母”、といったら、あっあなた、これって“白雪姫”のバクリではありませんか!むむむと思って、チラシをちらりと見たら“ブランカニエベス゛とは文字通り白雪姫のことだったのです。予習を全くしないでみたから気づきませんでした(^^ゞ
オリジナルキャラクターは活かしつつ、この物語には「シンデレラ」や「赤ずきん」、「眠れる森の美女」といったグリム童話代表作のエッセンスが散りばめられていたのです。そこにスペインの国技“闘牛”を大胆に織り交ぜることで全く新しいファンタジーを創り出すことに成功したのでした。おとぎ話が持つ「誰もが憧れる夢のような華やさ」とラストシーンに際立つ「神秘さ」に加えて、「どこか物悲しくダークな世界」という魔性の二面性に魅かれずにはいられないことでしょう。
本作最大の見せ場は、かつてアントニオが立ち続けた名門闘牛場にブランカニエベスが発出場するシーン。白雪姫闘牛士人気で会場のチケットは完売、超満員の観衆が見守るなかで登場するブランカニエベスに、過去のアントニオとの思い出がオーバーラップして描かれます。父親の教え通り、牛の目を射し入るように見つめ、トドメの剣を構える姿は、惚れ惚れするほどにカッコイイのです。熱狂的な闘牛シーンの後、待ち構えていたのは、エンカルナが手にした“毒リンゴ”!いくらストーリーが“白雪姫”になぞっているとはいえ、そこまでベタに合わせる必要があるのかと思いました。もっと姫の闘牛シーンを見たかったです。
台詞がない分、背景に流れる音楽は、凄く素敵です。まるでクラッシックのコンサートの開始を告げるストリングスのチューニングの音を皮切りに、スペインの伝統芸能フラメンコの軽快なリズムを最大限に引き出しながら、スペインの美しいロケーションと熱い躍動が、目も耳も感性も満たしてくれる作品でした。