「愛の傷」熱波 sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
愛の傷
最愛の妻を看取った男が、その喪失感から逃れようとアフリカの地を訪れるが、そこでも彼は妻の亡霊から逃れられない。
やがて彼は死後の世界で彼女と一緒になるために、ワニが待ち構える沼に飛び込み命を断つ。
この冒頭のエピソードは愛の究極の形を象徴したものなのだろう。
モノクロの映像が美しいが、集中力が必要な哲学的なテーマを持った作品だと思った。
二部構成になっており、第一部は「楽園の喪失」。
政治的な活動や平和活動をしているピラールは、隣人のトラブルに悩ませている。
アウロラという老女はどうも精神的に不安定で、有り金をすべてカジノに注ぎ込んでしまったり、被害妄想でメイドのサンタにあたったり、連絡を寄越さない娘への愚痴をピラールにこぼしたりする。
喪失とタイトルにあるように、どのエピソードもかつては美しかったものが失われたような虚しさを感じさせる。
やがてアウロラは危篤状態になる。
彼女はピラールとサンタにある男に会わせて欲しいとお願いする。
ピラールは彼女の告げたベントゥーラという男を探し出すが、アウロラは彼と再会することなく息を引き取る。
そしてベントゥーラはアウロラとの出会いを語り出す。
第二部は「楽園」
ポルトガルの植民地時代のアフリカの風景がとても美しく描き出されるが、まだ若く美しいアウロラにとってはまさにそこは楽園のような場所だった。
両親は既に亡くなっているが、夫と何不自由ない暮らしをしている彼女の下に、流れ者であるベントゥーラが現れる。
やがて二人は禁断の恋に落ちる。
二人は夫の目を盗んで何度も逢瀬を重ねる。
そしてこのままではアウロラと一緒になれないベントゥーラは、彼女を連れて駆け落ちすることを決める。
メロドラマとしてはとても盛り上がる展開なのだが、この第二部では老いたベントゥーラの独白以外に台詞が一切ない。
どこか達観したように人の営みを眺める視点が、この映画の芸術性を高めているのかとも感じた。
静かな映画だが、ひとつひとつの画はとても印象に残る。
ベントゥーラと駆け落ちするアウロラは妊娠していた。
しかしそれは一番愛する者との間に出来た子供ではない。
晩年、彼女が娘と不和になっていたのも、そんなところに原因があるのかなと思った。
結局、ベントゥーラはアウロラを夫の下へと返す。
そして二人はお互いに想い合いながらも、一度も顔を合わすことはなかった。
愛は人を傷つけるものだ。
しかし、それでも二人は出会うべくして出会ったのだろう。
残念ながらこの映画を楽しむには理解力が追い付かない部分が多く、何となく高尚な作品を観たという印象だけが残った。