劇場公開日 2013年7月13日

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熱波 : 映画評論・批評

2013年7月16日更新

2013年7月13日よりシアター・イメージフォーラムほかにてロードショー

蕩けるような時間の揺らめきと重なり合いの中に私たちの人生がある

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年寄りの昔語りなど聞きたくもないと常に思っていたはずが、気がつくと自分もそう言われる側の年齢になってしまっている。しかしそうなると今度は、昔語りを聞くのも悪くないと思えてくるから不思議である。だってそれは、もしかするとまったくの嘘かもしれないではないか。そうであったかもしれない物語が、まるで事実であったかのようにそこでは語られているのだ。その嘘ににやりとする。

一方若者たちは、そうなりたい自分の未来への夢想に包まれて、現在を生きる。未来の可能性はコントロール不能な不安をももたらすはずだ。そんな若者たちの不安渦巻く夢の未来と老人たちの捏造された記憶とが、不意に交差する。それが映画館でありスクリーンなのだと言えないだろうか。「熱波」と題されたこの映画を観ていると、「熱」とは未来と過去とが混じり合い現在を作る時の摩擦熱なのだと言いたくなる。

ストーリーは単純である。かつて熱烈に愛し合ったものの別れざるを得なかった元恋人たちの、年老いた現在と若き日々。若き男は愛に命をかけ、年老いた女はひたすら涙を流す。命がけの愛が時を超えて老女の胸を焦がすのだ。その蕩(とろ)けるような時間の揺らめきと重なり合いの中に私たちの人生がある。未来と過去とが交錯するスクリーンとは私たちそのもののことなのだと、この映画は語りかける。だから私たちは、どんな人生をも生きることができるのだ。

樋口泰人

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