「SFでもファンタジーでもないありそうでなさそうな思春期ショートストーリー」言の葉の庭 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
SFでもファンタジーでもないありそうでなさそうな思春期ショートストーリー
高校1年生のタカオは、登校時に雨が降ると新宿駅南口から徒歩で新宿御苑に行き、日本庭園の屋根の下でスケッチを描くのが日課。梅雨入りしたある日タカオがいつもの場所に行くと先客が。その女性にふとどこかで会ったような気がしたタカオは声をかけると、一旦は「いいえ」と答えた彼女だったが、「鳴る神の 少し響みてさし曇り・・・」と知らない短歌を呟いてその場を立ち去る・・・思い切りベタなファンタジーに舵を切った新海監督の前作『星を追う子ども』の次は、SFでもファンタジーでもないありそうでなさそうな思春期ショートストーリー。
雨雲に覆われた新宿に隣接する異空間、新宿御苑で雨の朝にだけ成就する逢瀬で少しずつ心を通わせる二人がそれぞれに悩みを抱えながらも前に踏み出そうとする姿を静かに見つめる物語に寄り添う雨音は、タカオが異空間の外で起こっていた事件を知ったことで足音を荒げる。シズル感に満ちた風景の中で主題歌に誘われて訪れる静かな結末がしっとりと胸に沁みわたる実に切なくて美しい小品でした。
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