「ゾンビが言葉を話す、音楽を聴く、ドライブする、恋をする…これまでの観念を全て覆されるラブストーリー!」ウォーム・ボディーズ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
ゾンビが言葉を話す、音楽を聴く、ドライブする、恋をする…これまでの観念を全て覆されるラブストーリー!
これを見た竹中直人が絶句したそうです。「ゾ、ゾンビが恋を!?何で!?ゾ、ゾンビなのに!?あり得ない!」と。自身もゾンビ映画を監督したことのある竹中直人がこんなコメントするくらい予想外の作品でした。
鈴木亜美の言葉を借りて、その意外性を並べれば、「ゾンビが言葉を話す、音楽を聴く、ドライブする、恋をする…これまでの観念を全て覆す新しい心のあるミステリー(略)、ゾンビ目線での映画は初めてです」ということなんです。
で、亜美ちゃんの語る最大のポイントは、「ラブストーリーでもある物語」ということ。こう語ると、昨年完了した『トワイライト・ゾーン』シリーズを思い浮かべるでしょうけれど、あのシリーズのそもそもの恋の動機がむちゃくちゃな御都合主義。その点、本作のはじまりは、理にかなっています。きっかけは、主人公のゾンビ(後にRと命名される)がヒロインのジュリーの勤務先を襲撃したとき、たまたま視線があって胸キュンとなることから。タイトルのネーミングは、そんなゾンビRが愛に目醒めたとき体に感じてしまう熱い心を言い表しているのです。
但し、その後とった行動はいただけません。ジュリーに接近したいゾンビRは、そばにいたヒロインの彼氏を襲い、脳みそを喰らってしまうのです。人の脳を喰らうと記憶まで共有できるからでした。
恋するゾンビはヒロインを助けて匿います。けれども怖さは慣れたとしても、自分の彼氏を喰らったヒロインが絶対に許すわけがありません。それでは、そもそもラブストーリーにならなくなり、ゾンビの片思いになります。ところが巧みな脚本は、納得のいく形でふたりをグイグイと結びつけていくのでした。
こんな設定だから、要所に笑いどころ満載。
Rがジュリーを安全なところに逃がすシーンでは、ジュリーにゾンビのマネをさせます。恐怖のためジュリーがオーバーアクションでマネをするところが可笑しかったです。思わずRがやり過ぎだと注意するほどでした。
またRがジュリーの家を見つけてやってきたとき、ジュリーは見つかって撃たれたりしないように、人間らしいメイクを施すところもなかなかコミカルでした。化粧したRは、ジュリーがイケメンだわ~と叫ぶほど、いい男だったのです。
但し、襲撃シーンから彼氏の脳みそを喰らうシーンまで本格的なゾンビ映画になっていて、怖さは格別。思わず隣の席の人はこのシーンだけで席を立って帰ってしまいました。あ~、ここだけ見て勘違いして帰るなんて、なんてもったいないのでしょう!
後半の人間と人間らしさを取り戻した一部のゾンビが、凶悪なガイコツゾンビを駆逐していく過程では、ちょっと進行が急ぎすぎて雑になりました。それでも、CGの描写に手抜かりはなくガイコツゾンビはリアルに襲ってきます。ガイコツゾンビと人間の戦闘シーンも、ドキドキさせる迫力あるものでした。何よりも、コミカルなシーンが凄く笑えて、楽しめました。
大事なポイントは、ヒロインと愛が深まるほどにゾンビが人間らしく変わっていくのです。普通なら愛しい人が撃たれたら、悲しむものでしょう。しかし、人間の世界にまでジュリーを探しに来たゾンビRが、ジュリーの父親の防衛軍指揮官に撃たれたとき、血を流し痛みを訴えるゾンビRに、ジュリーは歓喜するのです。それだけRが人間に近づいた証だったから。
ゾンビに変わり果てたのに、また人間に戻れるというのが、ラブストーリーと並ぶ本作の特徴となっていたのでした。それはRだけではなかったのです。Rの変化をそば見ていた仲間のゾンビも、その変化がいいなぁと思った瞬間、Rに芽生えた愛の想いがゾンビの間で伝染病のように「蔓延」していくのです。
きっと原作者は、ゾンビにも仏性はなくならないと考えたのでしょう。人間性の根本はなくなっていないのだから、Rに触発されて心の奥の奥に封印してしまった仏性が顕現して、人を襲うことから、人に優しいゾンビへと変わり、やがて人間そのものに戻っていくのです。
これは何も映画だけのことでなく、殺伐とした現代社会にもいえることです。孤独を癒すために奇行に走ったり、人に害を為したりしてまで愛を得ようとする人が後を絶ちません。人間の格好をしたゾンビが世間にはうようよいるのです。そういう人達を元の慈悲深い人間に戻してあげるためには、Rのように自分から人を愛する側に変わることが必要では無いかと思うのです。みんなが孤独で飢えていて、誰も愛そうとしないから、社会全体が殺伐としていきます。
愛というものがゾンビも変えることができる力強さ。そしてたった一組の愛が世界をも変えるということを描く本作は、コメディだけどなかなか奥の深いメッセージを持った作品だ思います。ゾンビ映画という偏見を捨てて、ぜひ見てください。