「身に覚えあり」建築学概論 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
身に覚えあり
建築は建物を使用する人、家屋ならばそこに住む人がどんな人かを知らなければならない。授業ではまず自分が住む街のことを知り、次に遠くの街に行ってみる。すると人は自分の好きな場所が見つかったり、自分が暮らしている家について考えたりするようになる。
この建築学概論の授業にように、主人公の学生は自分の暮らしぶりがどのようなものかを知り、好きな女の子と出会う。
裕福な先輩の部屋で最新式のパソコンを羨んだり、自宅にCDプレーヤーがないために女の子に借りたものを聞くことができないこと、Tシャツのロゴが偽物だということを友人に指摘されて気付くこと、といった経験は自分が決して経済的に恵まれていないことを意識させる。
若い頃はそんなことを必要以上に意識するものである。そして、恋をしてもそれが劣等感となって、素直な言葉や行動にならない。主人公が女の子への恋心をごまかそうとする様子に、身に覚えのある人も多いのではないだろうか。自分ではクールにはぐらかしているつもりなのだが、相手や周囲の友人にはバレバレなのだ。
このような初恋には、苦い経験がつきものなのだが、長い年月を経ることで愛おしい思い出になる。大人になり、歳を重ねてなお、忘れることができない。いや、時間が経つにつれますます大切になっていく。これは誰にも汚されることなく、自分の心の一番奥底にそっとしてあるものだ。しかし、人生に大きく傷ついたときや、先の見通しが立たなくなったときに戻っていける場所でもある。自分の生活が空っぽで中身のないものに思えるときも、最後の輝きがあれば、また前を向いて歩ける。
いろいろと途中で迷うことも出てくるが、結局は決められた図面通りにしか建物は出来上がらない。だが、建物には依頼主や図面を引いた人間の思いが宿っている。