風立ちぬのレビュー・感想・評価
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淡々として、しかし壮大である
少なくとも子供向けではありませんね。なので小さいお子さん連れの方はモンスターズユニバーシティとかのほうが良いでしょう。
内容について。全体としては特にぱっとせず、劇的な展開などはあまりありません。終わった時は、え?もう終わりなの?と思ってしまうほど物足りない感があります。そこは視聴者の想像に任せるところなのかは分かりませんが、もう少し厚みのあるストーリーがほしかったです。
しかし、音、背景、アニメーションなど、細部へのこだわりはやはりジブリだなと思いました。非常に良かったです。特に設計図を書いてるところなんかは神がかっていました。
あと、この作品は男性には結構受けると思います。男たちのものづくりにかけた情熱がかなり印象に残るので、理系の人や、ものづくりが好きな人などは好きになる人が多いでしょう。主人公も、まじめで、勇敢で、ユーモアのある好青年ですのでやはり男性受けはいいでしょう。個人的にはアシタカさんの次くらいに好きです。庵野さんの声は意外といい感じでした。ああいう落ち着いた感じの声は今作の主人公にはかなり合っているとおもいます。
恋愛パートはイマイチでした。もっと時間を割ければよかったのですが、話がトントンと進みすぎて、全然感情移入ができなかったです。
まとめると、プロジェクトXにおまけ恋愛パートを追加した感じです。
数年後にまた見てみたい
観てきました!!
最初に言っておきますがトトロやラピュタなど過去の作品を大好きな方、ファンタジーを期待していた方は観ない方が良いと思います。
時代背景も難しいですしお子様を連れて行くとお考えになられている方は一人で行くかDVDを待ってゆっくり観るのをオススメします。
率直な意見を言いますと、物足りなさを感じます。
アニメのキャラクターとは違って実際に生きた人物を元に作られた作品だからこそ想像がしにくいなとも感じました。もっとお勉強をして行きたかったな・・・
今の時代、当時のお話を聞ける機会も少なくなってきたので、火垂るの墓とはまた違った題材のアニメで今に伝えるというのもひとつの手だと思います。
観終わった後は素直に涙が止まりませんでした。
もう少し大人になり、いつか守るべきモノができた時にまた観てみようと思う映画でした。
宮崎作品にこういうアニメが一本あってもいいのではないでしょうか!!!
「天才の人生」をのぞき観る映画
この映画は、才能に命かけ生きた(傍目には極めて淡々と)天才の人生を、やはり天才である宮崎駿監督が、説明しすぎず、あえて不親切に「自分の視界」と重ね合わせながら、そのままに描いた作品だと感じました。
登場する天才たちは、ある意味ですごく子供。堀越二郎が思いつきで貧しい子供にお菓子をあげようとして反発されるシーンに始まり、愛する人が心配になれば仕事を放り出して駆けつけたりしてしまう。
イタリアの設計士・カプローニは、自分が手がけた飛行機がテイクオフに失敗すると、その様子を撮影するのを力づくでやめさせます。フィルムを引っぱり出しカメラを湖に投げ入れてしまう。
二郎は理想を追ってつくった飛行機の設計に一度失敗し、墜落させてしまういますが、それが挫折(これもまた淡々とですが)として描かれます。でも、失敗を犯しても上司の信頼は失っていない。
普通の人間、もしくは一般的には秀才と呼ばれるような人間からすれば、あれは挫折のうちに入りません。次のチャンスに備え上司の期待に応えられるよう努力をすればいいだけのことです。
でも、天才たちは、自分のつくりたいものがつくれなければすぐに傷つく。それはもう挫折なのでしょう。どんなに応援してくれる人がいても、素晴らしいと言ってくれる人がいても、当時の日本の工業レベルの低さという言い訳できる環境も関係ない。普通の人にとっては慰めになるようなことも、天才にとってはなんの意味も持たない。
宮崎監督は庵野秀明さんを「現代で一番傷つきながら生きている」と評しましたが、その心情を乗せて欲しかったのでは? と感じました。
後半、二郎はそのスタンスを恋愛にも持ち込みます。奈穂子との関係も飛行機同様に“美しさ”を優先します。
二人があまりに淡々としているので、受け入れてしまいますが、普通の価値観を持っていれば美しい生活よりも菜穂子の体調を最優先すべきでしょう。でもそうはしない。二郎は結核を患った奈穂子の隣りで、手をつなぎ、タバコを吸いながら作業を続けます。まるで子供です。
この構図は、美しさを追い求めるがゆえに、人を殺す兵器である戦闘機をつくってしまった二郎の人生とも重なっていると思います。
ただ、公式ウェブで公開されている企画書では
「この映画は戦争を糾弾しようというものではない。ゼロ戦の優秀さで日本の若者を鼓舞しようというものでもない。本当は民間機を作りたかったなどとかばう心算もない」
とあります。でも実際の作品は、この部分のニュートラルさが少し欠けていたかなとも感じます。「二郎は戦争は嫌で、ただ美しい飛行機がつくりたかったのだ」と理解されてもおかしくない。
物語の中で零戦にあまり触れなかったこと。零戦の脅威によって、日本の飛行機開発がGHQによって10年にわたって禁止され、その結果二郎が飛行機の設計に携わる機会を失う“本当の挫折”が描かれなかったあたりは、親族の方に配慮したのかもしれません。
本当の挫折が描かれれば「天才の人生」と「普通の人の人生」がブリッジされ、また違ったテーマを持ったとも思いますが、本当の挫折を味わうことなく72歳まで天才として生きてきた宮崎監督が描くべきものではないと判断してもおかしくなさそうです。
普通の人生を歩む人に共感は難しいのでは? 作品を観て自分に残った感情は、自分には決してできない「天才たちの送った美しい人生に対する憧憬」でした。
宮崎監督の映画は、いつも「割り切れない部分」があり、今回もそれは存在します。ただ、これまではそうしたものが作品の中心に、誰もが無視できない状態で置かれていたような気がします。今回は端的に「泣ける話」だとミスリードも可能な構造になっているのは気になりました。宮崎監督が自ら涙を流したことを好んで宣伝に用いていることも含めてですが。この点については「美しくない」と思いました。
昭和初期の人々を映す記録映画
大人の映画。激動の時代に生きた男のロマン。
少なくとも戦前の歴史を知った人向けの映画です。時代背景を知らないと理解が困難と思われます。男(宮崎監督)の甘いロマン性が強く印象に残った大人の恋愛映画(宮崎映画では珍しくヒロインに女性フェロモンを感じた)でもあり、戦前の窮屈な時代に理想の飛行機作りを夢見て全力で生き抜いたひとりの技術者の物語でもありました。特に今回の映画はどの画面も美しく生き生きとして迫力があり、絵を見ているだけでも楽しめました。戦前の時代の悪いところはきちんと静かに批判し、天災の恐ろしさや人災(戦争)の空しさが映画を見終わって静かではあるけれど強く伝わってきます。1946年生まれのかって計算尺を愛用していた元研究開発従事者としてはすごく共鳴できた感動作でありました。
美しい
全体的に、美しい。
絵もストーリーも
全部全部美しかったです。
ジブリ作品はすべてみてきておりますが
時間がゆっくりだなあと感じた映画は
これがはじめてです。
なほこさんは美しく、
じろうはまっすぐでした。
すこし難しいですから
子供さんにはむいてないかもしれません
ほんとうに、
今までのジブリ感がなくて、
わくわくは全くしません。
ですがそれを上回る
自然に涙がでてくるような、そんな映画
飾っていない
作られていない
まっすぐな人生
なんか、終わった後
もう一度じっくり見たくなりました(笑)
心にしみるすばらしさと美しさ
セリフで表現されていない部分に感動
飛行機を作ることが夢で、夢に一途、それでいて真面目で優しい少年だった主人公。
しかし、時代は大正から昭和初期。今でいう旅客機ではなく、戦闘機の設計の方に国自体が力を入れていたのだろう。戦争が起きる事は自然の流れであるかのように教育されていた時代だったのだろう。彼は、夢見ていた素敵な飛行機ではなく 戦闘機の設計を悪意なく必死で続ける。
所々で、裕福ではない人々が多いにもかかわらず莫大な費用が 戦闘機に投入されていること、そのせいで食べたいものも食べられず 我慢を強いられている子供たちの存在も知るが、それでも 彼は戦闘機の設計(もっと言うと、彼にとって戦闘機も旅客機も”夢の飛行機”でしかなかったのだと理解した)をやめようとはしなかった。
人殺しのために研究を重ねて作られた戦闘機であったかも知れないが そのおかげで現代のような安全な旅客機を作り上げる事が出来たのかもしれない。皮肉なものではあるが。
隔離されるほどの病気である結核の婚約者に対しても 感染を恐れることなく まっすぐに愛を捧げている姿にも心を動かされた。
戦後生まれの戦後育ちである私にとって、理解しがたい時代背景ではあるが、祖母や祖父、父や母に聞いた話等と照らして考えると セリフで表現しきれない部分で 主人公や登場人物の膨大な苦悩があったのだろうと、推測は膨らむばかりである。
宮崎さんの作品にある”隠されたメッセージ”は 一度観賞しただけではわかりづらいため また観たい、とそう思わされてしまう作品の一つとなった。
夢を見る事を忘れ、深く考えることを忘れてしまった私たちにもっと想像を膨らませ、そして考えろ と言いたかったのかもしれない。
素晴らしい!作品
現代に必要な映画
「つまらない」という人はこの作品に刺激を求めていたのでしょうか?
この作品はけしてつまらなくはないと思います。
色々考えることのできた作品でした。
知らない時代の天災や経済、国交事情など、歴史が好きな私にとっては
面白かったですよ?
いわゆる言葉だけ放ち省略された部分は自分なりに色々想像したり、
久々に「妄想」できた気がします。
脳が活性化できた作品でした。
何でこんなにつまらないんだろう?
心ふるえる作品でした
終盤急ぎすぎ
いつもの通り映像は美しかったです
ただ、監督はこの主人公をどのように描きたかったのか、最後まで掴めませんでした
話し方は、昭和初期の日本映画の俳優さんはこんな話し方だったなあとは思います
でも、描かれているのは、現代なのか昔なのか中途半端な人で
留学するような人はこんな現代風のフェミニストなのかなあと思いましたが
なんだかしっくり来ません
だから、声や話し方に違和感があるんだと思いました
内容は、ラストの部分が急ぎすぎてて
一番言いたいことが全部ぼやけてしまった感じがしました
1機も帰ってこなかったことや、菜穂子さんが亡くなった時の
その時の様子が回想だけで終わってしまっているのが残念です
主人公がその時どうだったのか
どんな風に感じて、どんな風に乗り越えたのか
少なくとも、それが丁寧に彫り下げてあれば、
もっと説得力があったのになあと残念に思います
酷いレビューですみません
本当につまらないな映画でした
今迄、宮崎駿監督の映画は殆ど見てきましたが、一番つまらない映画でした。宮崎監督の作品は、見ている人々に 夢、希望、感動 等等 を様々なものをプレゼントしてきてくれましたが、今回の作品は 宮崎監督が自分自信にプレゼントした作品では無いでしょうか?声優のクオリティー等お構いなしで、好きな人間を配役したりやりたい放題ですね 凄く期待して上映初日の初回を見ましたが、終わった後に「えっ!これで終わり?」と思ってしまったのは僕だけでは無かったです。周りの人の声も同等の反応を多く聞きました。「友達に何と感想送ろー?」 「とりあえず面白かったんちゃう? って言っとけば察しはつくんちゃう?」 と話してる人もいました。本当に残念で仕方ありませんが、酷いコメントを書いて申し訳ありませんでした。
ロマンを感じる
男として、エンジニアとしては心揺さぶられる作品でした。
作画が本当にすごい。スタッフの努力とドヤ顔がスクリーンに現れるほどのすごさ。演出や表現がなんだかありそうで無い、でもなぜかゾクゾクしました。とにかく自分は大好きです。ジブリ最高傑作だと感じました。
また、映画が終わった後に拍手が起こりました。少なくとも子供はあんまり面白くないかもですが、大人は楽しめたようです。
と、鑑賞後すぐは手放しに良かったと思ってましたが、今思うとストーリーはやはり微妙だったかも。
声優は相変わらずなので慣れてれば問題なし。主題がなんなのかとか前情報が無いほうが話には入り込めると思う。
年令問わずに楽しめる作品ではないのでそこは注意。伴って宮さんの趣味を理解できない人は退屈かも。
ただ私には結構滾るものがあり、ロマンを大いに感じ取れたので楽しめました。
はっきり言ってラブロマンス的要素は要らなかったです。主人公の淡々とした性格故に起伏のある作品ではないですが、作品全体の雰囲気としては清々しく、まさに”風立ちぬ”ような空気感があります。
宮さんの趣味道楽がすぎるという意見もあるかもですが、私はこの人の好き勝手やった作品が好きです。
好みによると言ってしまうと元も子もないですが、ジブリの中でも毛色が少し違う作品と思われますので、そこは寛容に受け取ってみる事で楽しみやすくなると思います。
考える事を放棄した人には無理
まず第一に
「娯楽映画ではない」
見たもの、聞いたものをそのまま受け止めても何も何も残らないでしょう。
恐らく、勝手に生きて勝手に挫折して~視聴者置いてけぼりの作品、みたいな共感も何も無い作品と思われるでしょう。
考える事を放棄した人間には何も得られない映画
だと思います。
観る側がいかに思考し、洞察し、読み解くか
その先に大きな大きな「セリフにはないメッセージ」がある。
早い話が昔の日本人はみんなこうだった。
言葉の裏側で会話をしていた。
「すいません」の裏側に「ありがとう」があるように
日本人独特の心理表現が随所にみられる
全編を通してこうした理解があれば大いに感動し、
表題の本当の意味も理解出来ると思います。
かなり観る側にスキルを要求する映画だと感じました。
私のような古い人間にはとても理解しやすく「古き良き日本人」を久々に感じることが出来た、と思えたけれど・・・
現代の日本人にどれだけ訴えられるのか
現代の日本人は以前の日本人がもっていた感受性をどれだけ残しているのか
携帯電話が無かった時代に青春を過ごした日本人には衝撃があると思います
今後の評価がとても気になる作品でした
良い映画をありがとう!
‘生きねば’ピッタリな一言でした。
どれだけ予告編を見せられたことか…どこの映画館でもどの作品でもひたすら4分間の予告編見せられていいかげんにしろ!っと思っていましたが…
この作品、いい作品でした。感動しました。泣けました。しばらく涙が止まりませんでした。
絵面は誰もがご存知のようにどれをとっても素晴らしい。
久石譲さんの音楽がこれまたいい。
エンディングの荒井由実の主題歌もマッチングしていました。
フィクションではあるけれど、生きるのに辛い時も、時代が大変なときも、夢を追いつ続ける人がいるから時代はきちんと進んでいくんだな、ってことを痛感。主人公二人が再開してから結ばれるまでがやや唐突な気もしますが、この二人のお互いを思いやる気持ちも、また快く響くのでした…。
夢と現実が交差するお話展開も宮崎アニメにはピッタリですね。
とにかく、いいです、この作品。よかった。
誰もが羨む存在の挫折
誰もが羨む存在の挫折が心に刺さる映画。
文学小説にも似た、「誰が何を描いているのか」を踏まえて観る映画。
宮崎駿監督は、日本人なら誰もが知る、国民的アニメ映画監督。
飛行シーンにこだわり続けた監督が、飛行機設計士の物語を描く。
しかもただの設計技師ではない。日本を代表する設計技師だ。
これを宮崎駿監督に重ねずに見ることはできないし
なにより、誰からも羨まれる才能と地位にいる人物として共通する。
そんな「憧れの人」の「人生を賭した先にある挫折」が描かれる。
以下、ネタばれを含む。
作中主人公は、「ただ美しい飛行機を作りたかった」と繰り返し発言する青年。それが彼の唯一単純な夢。
しかし、戦時下にある日本で「飛行機」は
「戦闘機」としてしか存在を許されない。
現実と折り合いをつけながら「美しい戦闘機」を作る主人公。
早い段階から頭角を現し、才能を認められ、プロジェクトを任され、失敗し、そして傑作と呼べる作品を残す。しかし、その作品によって、「国が滅びる」。
私は、今年30歳。
小学校時代、教育の中にジブリがあった。
ジブリの歌を合唱で歌い、吹奏楽ではラピュタやトトロを何度も聴いた。
当時、公害問題から社会現象となっていた自然環境保護の精神を
ジブリの『ナウシカ』『となりのトトロ』や『もののけ姫』から学んだし
言ってしまえば「水の旅人」なんて最たるものだった。
つまり、積極的に教育現場に浸透していったことからもわかるように
ジブリは国民的映画になる過程で
日本国民がとるべき行動や感受性の指針を背負っていた。
毎年8月に『火垂るの墓』がテレビで放送されることも象徴的だ。
ジブリは日本の国民性を作るミッションを結果的に担っていた。
これは、ただ「美しいモノを作りたい」という青年の葛藤に重なる。
つまり、宮崎駿監督はただ「美しいアニメを作りたい」と考えてきた。
しかし、ただ美しいロマンを突き詰めるだけでは、映画は存在できない。
商売であるし、お金が絡むし、国民的映画監督となれば、社会的責任も背負う。
そのロマンティシズムを監督自身が否定していたわけではない。
「美しい戦闘機」は傑作で、監督の夢が形になったものでは確かにあった。
ジブリの送り出した価値観は、監督の信じるロマンであったことは確かだろう。
ただし、結果として「国を滅ぼした」。
「だれも帰ってこなかった」。「悪夢かと思ったよ」。
監督は、現実を魅力的に描くことができなかった。
言いかえると、
平均的に働き、子を育み、死んでいくという
現実的な人の営みを魅力的に描くことができなかった。
監督の作品は、冒険や不思議な存在、魔法の力など
現実には存在しない、ロマンティックな力や心の優しさを
物語のクライマックスシーンでの、「解決策」に描き続けた。
『魔女の宅急便』が象徴的だ。
魔女の少女が、街に出て特技を生かして働く物語だが
最終的には、働くこととは関係のない、飛行船に友人が吊下げられるという大事件を、魔法の力で解決し、彼女は街のヒロインになる。
魔女の宅急便として頑張った先ではなく、本人がもともと持っていた彼女にしかない資質で、誰にも出来ないことをやって、ヒロインになる。
監督の「美しいと思うモノ」はそのロマンの中にあった。
その生き方は、多くの人には真似の出来ないものだ。
しかし、子どもたちは「その自己実現」を衝撃的に受け取った。
自分の才能を信じて街に出て、例え一時は認められずスランプに陥っても
信じて続けることでいつか大きな花を咲かせる。この生き方だ。
結果として、
働くことを描いたアニメで、才能による一発逆転を賛美してしまった。
エンターテイメントとしては最高の映画だし
細部まで拘りきった映像伏線が張られていて何度見ても感動する。
ただ、働くことそのものを、魅力的に描くこと
物語のクライマックスに持っていくことに失敗したのだ。
宮崎監督はロマンの人だったために
普通に働いて生き、そして死ぬことを、魅力的に描けなかった。
結果、日本の子供達が
「普通に生きること」に魅力を感じない一因となった。
仕事をして生活することに魅力を感じない若者が多数生まれた。
夢を追うことに人生を賭すフリーターや
生きることに魅力を感じないニートを多数生み出した。
自殺者年間三万人も無関係ではない、
監督はそう感じているのではないか。
その反省が『千と千尋の神隠し』で見てとれる。
真正面から、「働くこと」を描いた。
子供たちに、働くことの素晴らしさを伝えようとしたのだ。
しかし、この千尋を魅力的に見せることに、監督は失敗している。
作中、働くことで親を取り戻した千尋はトンネルをくぐり現実に戻る。
トンネルをくぐり、異世界へ来た時と同じように、親の腕にしがみついて。
魔女の宅急便のキキのその後と違いすぎて、悲しかったのを覚えている。
監督は信じていない美しさを描けなった。
普通に働いて死ぬことに、ロマンを描けなかったのだ。
思うに、この挫折は相当だったろうと思う。
自分の作る作品が、弱い若者、現実で生きることが出来ない若者を生むとして
自分は映画を作っていいのか。
そこで『ハウルの動く城』では
動く城という表現の面白さをつきつめて取り組んだ。
また、老いて生きること、人の美しさの本質を描こうとした。
物語の整合性はかなぐり捨てた。
あるいは、あえて捨てたのかもしれない。恐ろしくて。
そしてこれもやはり、挫折だったろうと思う。
普通に老いた女性ではなかったし。
もう、何を作っていいのか、わからない。
そこまで来ていたのではないか。
その監督が『風立ちぬ』を描いた。
もはや普通の人の普通の生活を魅力的に描くことは自分にはできない。
どうすれば、「生きる」ことを肯定的に描けるだろうか。
答えは出なかった。
そこで、自分を題材に取ることにした。
特殊な仕事とはいえ、宮崎監督自身も精一杯働いてきた。
そして、人から羨まれる立場にあり、成功を収めたと言っていい。
「男は仕事をしてこそだ」というセリフが作中にあったと思う。
これは、真実、監督がそう感じていると思う。
だから、仕事をしながら輝かなければだめだと
その思いに嘘はないから、表現は踊り始めた。
そして、嘘をつかなかった。
仕事に打ち込んで、それだけの結果を残しながら
監督自身は今、言い知れない上記のような挫折を感じている。
それを最後に描いた。
「ただ美しい表現がしたかった」という本音と
時代の流れの中でやむなくやった部分もあるという懺悔
そして、たしかに「美しいモノ」を生み出したけれど
それが招いた結果に実は愕然としている。
夢をかなえた先に、待っていた挫折。
この先、どこに向かっていいのか、途方に暮れる感じが滲み出ている。
また、創作者としてのピークは「10年」だと
何十年も作ってきた監督が描いている。
自分はもう、純粋な気持ちで映画を作れない
もう長い間作れていない、本当は作っていていい人間ではない、
監督のロマンチシズムがそう言っているのではないか。
その監督が、そんな自身のロマンチシズムに否定され続けながら
苦心して描いた「風立ちぬ」。
夢を叶えた先の挫折を描くことで、
ジブリを見て育った若者に、生きることを問う。
働きながら輝くことの尊さと限界を描き
そこから何を感じるか、どう生きるかは、もう君たちに任せる、と。
敢えて、主人公、ヒロインを強く美しく描き
自分と切り離す理想を描いたように見せてロマンチシズムを鼓舞し
素直な心根を描ききった。
「風が吹く限りは、生きねばならぬ」
宮崎監督にしか作れない、傑作だと思う。
二郎の生き様に、『風』を感じました。人の出会いはまるで風のごとく吹き抜けて、立ち止まることはないのですね。
これまでのジブリ作品や多くのアニメ作品が子供を対象としてきたなかで、初めて大人の鑑賞のための純愛作品となったのが本作。主人公の二郎と菜穂子が織りなす純愛は、キラリと小玉の輝き放ち、観客を魅了し、試写会終了時には大きな拍手に包まれました。
本作の魅力は、関東大震災から、戦争が始まる昭和初期という暗い時代が背景なのに、そのことを糾弾せず、自分の夢に忠実にまっすぐ進んだ人物の純情と純愛を描いていることです。暗さや悲惨さにあまり触れていないことと、宮崎監督作品にしては、珍しく文明批判とか持論の反戦平和を露骨に語ることもない、毒気のない仕上がりがとてもいいと思えました。それについては公開後に、あの時代を美化しすぎているという物議を醸し出しそうです。でも、たとえどんな時代であるとも、まっすぐに人を愛することの美しさは変わらないことを見事に切りとって見せていると思います。特に、菜穂子が花嫁として登場するシーンは本当に美しく、素直に感動してしまいました。
そんなピュアな心情の描写に磨きをかけるのは、これまた美しい映像美と音楽です。特筆すべき点は、背景の遠景に至るまで、非常に緻密に描写されていることです。水や森、雲のリアルな質感。そして何よりももう一つの主役である「風」の吹き抜ける描写が、自然で素晴らしいのです。
これは憶測ですが、年齢からいって宮崎監督の最後の一作となるかもしれない本作のために、スタジオシブリが総力を挙げて描いたという意気込みが、ヒシヒシ伝わってくる緻密さでした。おそらく日本のアニメ技術の最高峰といっていい出来上がりではないかと思えます。そして、色調も彩度が高めでメリハリがあるのにとてもカラフルで、ファンステックなんですね。
それに合わせる 久石譲の音楽もとてもステキで、ギターの独奏とストリングスが情感をたっぷりに歌い上げてくるのです。主題歌の「ひこうき雲」もまるでこの映画のために作られたかのような填りよう。この歌は、 当時16歳だった荒井由実が死んでしまった友人を弔うために捧げた楽曲だったとか。そんなエピソードが込められているからこそ、しっくりくるのですね。
ただ結末は、尻切れトンボになってしまったのが残念。時間の関係なのでしょうか、それともシャイな宮崎監督はふたりの結末まであからさまに描くことをためらったのでしょうか。ラストシーンを迎えた試写会場でも、観客の“ああ~”という大きなため息に包まれました。心情としては、最後まで描いて欲しかったです。
ひょっとして、堀辰雄の原作と堀越二郎を合体させたストーリーの矛楯から、ふたりの最後の心情を描き切れなかったのかもしれません。その矛楯とは宮崎監督自身の心の中にある、「兵器である戦闘機などが好きな自分」と「戦争反対を訴える自分」という矛楯を抱えた自らの姿が、投影されていることからきています。戦闘機の開発にのめり込むことが、平和の象徴たる菜穂子を結核の末期なのに放置して、そのいのちを蝕む現実から逃避してしまう矛楯。まして、飛行機への夢の追求が、武器となって多くのいのちを奪う事態を招く矛楯について二郎はどう思っていたのか、結局その矛楯には触れられずに終わりました。でも純愛作品としては、逆にそういう結末のほうが良かったのかもしれません。
二つの話の合体だけに、ふたりが再会してラブストーリーが展開するのは、後半になってから。かなりじらされます。前半は、二郎が飛行機設計に関わるエピソードが語られます。この部分が長くなるのは、宮崎監督自身に格別の思いがあるから。実は、監督の父親も飛行機設計技師で、主人公の二郎と重なるところが多々あったからのです。
でも後半からの菜穂子の登場方が待っているから、この部分も駆け足にならざるを得ません。加えて二郎がなぜ飛行機設計にのめり込んだかという過程があまり詳しく触れられないのは、夢のシーンのため。重要な転機となるエピソードは、全て夢の中で語られるという展開も、分かりづらいところでした。夢のシーンは、航空機産業黎明期の功労者であるカプローニ伯爵との同じ志を持つ者同志の時空をこえた友情を描くために、考えられた展開だろうと思います。でも、まるでウディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』のように突然夢の世界にワープする展開をとるよりも、もっと現実世界での二郎が飛行機設計による夢の実現に時間を割いて欲しかったです。
さて、本作では、『生きねば』というテーマが、全編を貫いて描かれていました。
作中に登場する「風立ちぬ、いざ生きめやも」という有名な詩句は、ポール・ヴァレリーの詩『海辺の墓地』の一節“Le vent se leve, il faut tenter de vivre”を、原作者である堀辰雄が訳したものです。「生きようか、いやそんなことはない」の意ですが、「いざ」は、「さあ」という意の強い語感で「め」に係り、「生きようじゃないか」という意が同時に含まれています。
ヴァレリーの詩の直訳である「生きることを試みなければならない」という意志的なものと、その後に襲ってくる不安な状況を予覚したものが一体となっています。
また、過去から吹いてきた風が今ここに到達し起きたという時間的・空間的広がりを表し、生きようとする覚悟と不安がうまれた瞬間をとらえているのです。
宮崎監督と鈴木プロデューサーは、「いざ生きめやも」という言葉をもっと分かりやすく言い換える言葉を探して、キャッチフレーズの『生きねば』という言葉に行き着きいたそうです。その思いが劇中の二郎と菜穂子に投影されて、命を縮めてでも療養生活を放棄して結婚を強行。たとえ短くともふたりで幸せに過ごせる時間を共にする選択に向かわせたのだと思います。
菜穂子のモデルは、原作の作中の「私」の婚約者・節子であり、さらにそのモデルは、堀辰雄と1934年に婚約。翌年に12月に死去した矢野綾子という現実に存在した女性でした。本作の純愛に胸打たれるのは、宮崎監督の頭で考えたフィクションでなく、実際に堀辰雄が抱いた愛する伴侶への愛と悲しみが色濃く織り込まれているからです。本作からも、僅か1年余の結婚生活で堀辰雄が抱いた『生きねば』という切ない思いがよく伝わってきました。
愛する人ととの死別が近いことが分かっていても、決して怯むことなく飛行機設計に立ち向かっていった二郎の生き様に、『風』を感じました。人の出会いはまるで風のごとく吹き抜けて、立ち止まることはないのですね。
宮崎駿監督の弟子筋に当たる庵野監督の吹替え初挑戦は、朴訥な人柄がそのまま二郎にマッチしていて、素人とは思えない填りようでした。この仕返しは、今度庵野監督作品に師匠の宮崎監督を強制的に出演させることですね(^^ゞ
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