「残念ながら、つまらなかった」風立ちぬ 春の深谷さんの映画レビュー(感想・評価)
残念ながら、つまらなかった
私はジブリ映画のファンです。この映画、宮崎監督の最終作だということで、是非見ておかなくてはと期待しながら、映画館に出かけました。しかし、正直、つまらなかったです。残念です。
ストーリーは、純粋に飛行機好きな堀越次郎が戦闘機を作る話と、その堀越次郎と菜穂子との恋愛の成就が結びつけられていましたが、うまくまとまっていないと感じました。
見ながら考えました。この映画は、堀越次郎の飛行機への情熱を描きたいということで作られたのだろうか? だとしたら、人物への切り込みが軽すぎる、と言うか、なさ過ぎる。豊かに描かれているのは、子ども時代の飛行機に対する夢と、遅れた日本の工業力だけ。主人公がどれだけの苦労をしたのか、壁をどのように乗り越えたのか、周囲との軋轢は如何ばかりであったかというような展開はゼロ。オイオイ、これじゃ、ドラマにならないじゃないですか。夜遅くまで設計図を書いているシーンはありますが、ただそれだけ。ト書きの様に、働いているシーンがあるだけ。本人の内面については、何も表現されていません。要するに、主人公の姿は筆で描かれた平面的な絵そのものに止まっていて、生身の人間になっていないのです。
菜穂子との恋愛については、どうか。まあ、二人とも一目惚れだったという設定ですが、それにしても、死の病を背負った女性と結婚することに、家族との間で殆ど何の葛藤も起こらないというのは、リアリティがなさ過ぎます。相当な資産家である菜穂子の関係者も、旧家と思われる堀越次郎の家族親戚も、誰もいないところで、ひっそりと結婚式が行われるなどと、あり得べからざる展開。この点でもやはり、絵空事。
飛行機製作についても、恋愛の成就についても、砂糖菓子をまぶした様な子供だまし、と感じます。
この映画、誰に見せるつもりで作ったのでしょうか。
まさか、大人?こんな展開で感動する大人は少ないでしょう。例えば「七人の侍」だとかアマチャンだとか倍返しの銀行員のドラマと同じくらい面白いという人は、非常に限定的なのではないかと思います。
子ども向けのつもりで作ったのでしょうか。まあね、子ども時代に見た夢の続きを大人になってからも見ているなんて非現実的シーンに結構長い時間が掛けられていますから、その点を捉えれば、ファンタジーと言えばファンタジーですよね。でもね、爆撃機や戦闘機を作る話ですよ。それが戦争に利用されると分かっていながら、単に美しい飛行機を作りたいという情熱だけで作ってしまう技術者。なんの内面的な葛藤も無いまま・・・(少なくとも、映画の上ではあるようには表現されていないですね)。従来のジブリ作品とは違って、この映画の場合、戦いにはロマンが無いんですよ。少なくとも、ストーリーとして日本軍の軍備の充実にロマンは設定されていません。だから、そのための道具を作る男の話もファンタジーにはならないわけです。
軽井沢の草軽ホテルで外人が、『ここは良いところだ。ドイツの戦争も、満州事変も、日本の国際連盟脱退も、意識しないで済むのだから』という類のことを皮肉っぽく言うシーンがあります。これは、単に軽井沢の避暑地にいると現実逃避が出来るということを言っているだけではなく、堀越次郎の飛行機製作に対する態度についての暗喩にもなっていると思います。ますます子ども向けの話ではないですよね。
でもまあ、この部分がこの映画の中で一番良質な部分なのかなあという気はしますけどね。でも、大人向けの映画になっているかというと、前述の通りで、全然駄目だと思います。
要するに、ピントが合っていない。この映画で何を表現しようとしているのか分からないのです。監督は分かっているのかも知れませんが、私には全く伝わってきませんでした。
従来のジブリ作品は私も大好きで、家族揃って映画を見に行って、さらにDVDも買って、テレビで放送があるというとDVDがあるのにまた見たりしていました。感動させられちゃうんですね。子どもが楽しめる様に作られたファンタジーに。でも、この作品には、そういう要素は無いですね。
ただ、興行的には大成功の様ですね。そのお金を元に、次ぎに、どなたかが良い作品を作られると良いですね。せめてそのくらいの夢は持っていたいものです。