「観客の人間性や力量を問われる恐ろしい作品だと思います。」風立ちぬ てつわん44さんの映画レビュー(感想・評価)
観客の人間性や力量を問われる恐ろしい作品だと思います。
高校生の時だと思いますが、手塚治虫の火の鳥の第2巻(宇宙編?、とにかく第2巻が最後話です)を読んだとき、面白いけど本当は何を伝えたたかったのか全く分かりませんでした。40才過ぎてようやくわかった時に、空恐ろしい漫画だと感じた思いがあります。
今回の風立ちぬは、全く同じ感があります。
もちろん。すごく面白かったです。スピード感あふれる展開、ストーリーの面白さ、アニメの中で虚構とリアリティを違和感なく表現する手法、特にカプロー二氏とのやり取りの面白さ(彼がメフィストフェレスの役割を果たす事がわかった時鳥肌が立ちました)、そしてそれを可能にする精密な時代考証と精緻な背景画、特に背景画は余りにもきれいでアニメーションの人物が浮いてしまうくらいでした。
また、当時の日本人の気質も私の父から聞かされたのと同じで、おなかが好いていても決してシベリアに手は出しません。
この作品には、色んなかたが色んな見方をなさっているようです。中には、嫌煙、兵器開発者の賛美への批判、旧日本軍をおちょくっている…まあそれはもちろん自由だと思います。
私は、まずは映画から狂気・情熱・潔さを感じ、そして生きている人間は、真っ向から生きなければならないというメッセージを感じました。ですから、狂気の中に身をおいている庵野監督を声優に登用したのは私にはわかるような気がします。声優ミスとは全く思いませんでした。そのからみでいくと、服部さんの声(國村準氏)は素晴らしかったです。
でも、それ以上の感想はかけません。というのは、自分の中で反芻したいメッセージも多いというのもありますが、なによりも下手な感想は自分の浅薄さを吹聴する気がするからです。
この作品のなかで、宮崎監督は、本当に深い様々な想いにあふれ、様々なメッセージを投げかけていると思います。しかも、宮崎監督の映画で感じてしまう説教臭さがほとんど感じられないエンターテーメントとして完成された作品だと思います。
ですから、私は、この映画の感想を聞くと、その方の人間性、歩んでいる人生の深さや必死さなんかが透けて見える気がします。そこが、火の鳥の最終話に近いと思ったところで、感想を述べるのが怖いところでもあります。
ただ、一つ言えるのは、恥ずかしい話ですが、ひたすらに狂気の中で前を向いてもがいている私には、この映画はとても共感できるということです。
私は、ハイジ、コナン、1Stルパン3世から、宮崎監督のTVと映画は多分ほとんど見ているのではないかと思っていますが、そのなかで、傑出している映画は、カリオストロの城、ラピュタ、トトロだと思っていました。
特に、トトロを超えるような作品は、出ないかもしれないと思っていたのですが、この作品は、それを超える、遺言の作品ともいうべき、完成度の高い作品だと思います。こんな作品をポコポコ作れるわけはないと思うので、この映画を見ると、引退は少なくとも今のところは本当にそう思っているんだろうなあと感じます。
色んな騒動がありますが、宮崎監督もジブリも「見てください」以外のコメントを出していないのは、絶対的な自信にあると思います。。
もちろん、そのようなことを宮崎監督もジブリも考えてはいないでしょうが、感想だけで、自分の人生を評価される、観客の力量を試されるようなそら恐ろしい映画だと思います。