「残酷な・・」風立ちぬ takさんの映画レビュー(感想・評価)
残酷な・・
宮崎駿の映画は常に美しい夢でした。
今回もそれに変わりはありません。
今回は美しさを表現するのに「残酷さ」を使用しました
パンフレットからもわかるように菜穂子は美しいというだけの存在です
それ以外にこの物語に与える影響はない存在なのです
彼女の個性は美しさのみ(しかも見た目のという意味での)
二郎の愛情はそれのみに注がれます
菜穂子もそれを知り、緩やかな自殺を行います
自分の傍らでの喫煙を勧めるし、重篤な症状のまま空気の悪い都会に戻り
その寿命を縮める行為を自ら行うのです
美しさ以外に興味のない二郎を愛してしまった自分は、命を消費することしか
尽くせない。女性は男性に尽くすのみの存在だった…それ以外の価値を見出すことに
困難な時代が確かにこの国にあったのです。
それは現代的な正義感を持ち合わせている二郎(冒頭の少年を助けるシーンや、大震災での行為からもわかるように)ですら、男女の関わりにはその時代の正義に流されている事からも感じ取れます。
確かに次郎は通常の人に比べると人に対する愛情が浅い人間のように描かれていますが、友人の本庄が持つ結婚感からもこの時代の男女の関係が感じ取れるのです。
そして突出した才能の多くは人を殺すことに利用され、その能力が高ければ高いほど
誰かの命を奪い、またそれが正義とされる残酷な時代がこの国にあったのです。
いずれも狂おしいほどに残酷な、今日平和な日本からは考えられない
その時代の正義があり、その中で人は必死に生きていたのでしょう。
この映画は僕にとって泣ける映画ではありませんでした。
この映画は僕にとって今までみたどの映画より残酷で、どの映画より美しく、どの戦争映画を観たときより反戦の思いを強くし、どの映画より心を鷲掴みにされた作品となりました