「Le vent se lève, il faut tente」風立ちぬ ユウさんの映画レビュー(感想・評価)
Le vent se lève, il faut tente
劇場での4分間の予告編と、バックで流れていたユーミンのひこうき雲を聴いて、とても観たいと思い映画館へ観に行きました。
正直な感想は
【共感できず、楽しめなかった。】
です。
物語は実在する航空設計士をモデルとし、関東大震災から第二次世界大戦後迄をメインにその半生を、実在する作家の恋物語で味付けして描いたもので、ジブリ映画では珍しく大人の恋愛も絡んできます。
大震災と世界大戦があった時代背景。
ゼロ戦の設計に携わった主人公、二郎の夢と希望と苦悩と挫折。
重い結核の治療を中断してまで二郎のそばに寄り添い、彼を支え成功へ導いた恋人の菜穂子。
…このあたりが見どころでしょうか。
関東大震災や第二次世界大戦といった史実、航空設計士という特殊な職業とモデルとなった人物、元となる物語と現代では完治可能な結核という病。
これらについて、知識がある、もしくは事前に予習している人はこの映画の素晴らしさを十分に堪能できるのかもしれません。
しかし残念ながら、史実については授業や教科書レベルでの知識しかなく、モデルとなった人物やその職業について、また元になった物語の知識は皆無、結核についても当時は不治の病だったという事くらいしかわからないあたしには共感できる部分が少なく、あまり楽しめなかったです。
更に劇中で度々出てくるドイツ語のセリフなどには一切訳が入らず、登場人物の背景も主人公以外は全く説明がないので、状況を見て自分で想像し、解釈するしかなかったのも物語に入り込めなかった理由のひとつです。
これまでのような子供から大人まで楽しめるジブリ映画を期待する人や、子ども(12歳未満くらいかなぁ?)にはオススメ出来ない作品かと思います。
【以下ネタバレ注意】
落ち着いて映画の内容を反芻し、あれこれ考えた結果からのこじつけのような感想。
主人公が作りたかったのは空飛ぶ芸術品であり、大量殺戮兵器ではないという事。
しかし、時代と運命には抗えず戦闘機を作らなければならなかった苦悩や、貧しい時代と遅れた技術で思うようなモノが作れず失敗を繰り返し挫折、
加えて愛しい人が不治の病に冒されている事が発覚、と二郎の人生は散々たるものです。
菜穂子の結核が最早手遅れで治らない事は、恐らく二郎も菜穂子本人もわかっていたのでしょう。
ふたりに残されたわずかな時間を無駄にしない為、菜穂子は治療を中断し二郎の元へ嫁ぎます。
いちばん大変な時期だった二郎の心ををそばで支え、成功を見届け、最期の苦しむ姿は見せまいと手紙だけを遺し療養所のある高原へ帰った菜穂子の一途な様は、心を打たれました。
結局、二郎の作った飛行機は一機として戻らず、日本は敗戦を迎え、彼は何もかも失ったかのように見えます。(この時点で菜穂子は既に他界している)
しかし夢の世界で、初めてふたりが出会った時と同じに菜穂子が風を携え、二郎に逢いに戻り「生きて」と伝え(ここに今回のテーマの「風立ちぬ、いざ生きめやも」が集約されている気がします。)
彼女に感謝の意を述べる二郎の姿を最後に物語は終わります。
で、自分なりの勝手な解釈ですが今作にはつまり、豊かになり恵まれていても命を簡単に諦めてしまう現代人への激励の意味が込められているのかな、と。
命に限らず、現代人は僅かな挫折で何でもをすぐに諦める傾向にあるし。
現代でも主人公たちと同様に大震災の被害を受けましたが、この時代のふたりはその後の戦争でも多くを失い、更なる絶望を見たはずです。
それでも強く生きようとした姿を、脆弱になってしまった我々は見習わないといけないなぁとあたしは思いました。
テーマとなっている【風立ちぬ、いざ生きめやも】は
【まだ可能性はある、諦めず足掻いてみよう】ではないのかと感じた映画でした。
【2013.08.07/劇場鑑賞】