「美しいこと」風立ちぬ shimashimaさんの映画レビュー(感想・評価)
美しいこと
これまでにないくらい、美しいものを詰め込んだ映画。
この映画を見て私(20代です)は、あまり知らない結核の時代の文学や
日本近代史、そう遠い昔のことじゃなく私たちの国で実際にあった出来事、
かつて生きた人たちのことをもっと知りたいなと思いました。
さてこの映画、夢と恋というありふれたテーマを
とても美しく描かれていました。
二郎の夢はただ美しい飛行機をつくること。その夢を見失いかけた時
菜穂子が白い紙飛行機を受け取ってくれて、二人は子供のように
紙飛行機を飛ばして遊んでいます。本物の飛行機じゃないけれど
その紙飛行機こそ、二郎が描いた美しい夢に近かったのではないかと思います。
菜穂子は、結核を発症したあとも二郎がきれいだよ、大好きと
言ってくれたから、病気の辛さも弱音も漏らさず、美しく優しくいられる強さを
持てたんでしょう。高原のサナトリウムで一人涙ぐんでる菜穂子はどこか幼くも見えますが
二郎のそばにいる時の菜穂子ははっとする程大人びていて美しいです。
恥ずかしくなるくらい、シンプルで分かりやすいラブストーリーに見えますが
見る人の人生経験や恋愛経験に応じて、抑制された表情やセリフ、物語の行間に
実はいろいろ感じるものがあると思います。
震災の時、菜穂子が自分たちの荷物を持って行くのをあっさり諦めて
代わりに二郎のトランクを一生懸命運ぶ健気さに驚きましたが
大人になった彼女も、いつも自分の荷物は何も持ってなかったですね。
電報で菜穂子が喀血したことを聞いて、転げながら鞄に仕事の資料を詰め込む二郎の
姿も心に留まりました。他にはあれほど取り乱すこと無かったのに。
ふたりとも、大人だけど、子供のようにまっすぐに、
自分の分身みたいにお互いのことを思いやっていました。
国同士の思惑、前線で死んでゆく人々、罪もなく犠牲になる人々、
日本で戦争のあった時代を描く映画ですが、それらはあまり描かれません。
私はそれもありだと思います。
時代を捉える目線はいろんな角度があり、同時にすべてを知る人はいないから。
国が戦争に向かっている時、いつも通りの日常を過ごし
自分の目の前の仕事に集中し、出会った人と真摯に向き合う。それは愚かなことじゃない。
ひと一人の生きる世界や世の中を見る視野ってそんなに広くはないと思います。
テレビで見るほど、現実は単純ではなく分かりやすいストーリーがあるわけでもない。
一人一人の人生や、生きる意味、夢とかいうものは
世界の大きな動きに比べたら、すごくちっぽけなものかもしれないし
でも自分自身にとっては、何よりかけがえのないものになり得る。
そんなことを思いながら、自分が出来ることを精一杯生きた人たちの物語を見た気がしました。
どんな人も、自分が生きている時代や周りの環境と関係を持たざるを得ないけど
それでも、美しいものを達成することはできるのかな。