劇場公開日 2013年7月20日

「【人と近代化の時代】」風立ちぬ ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0【人と近代化の時代】

2021年8月30日
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僕は、宮崎駿作品のなかでは、先般レビューを書いた「もののけ姫」と、この「風立ちぬ」が好きだ。

前者は、思想やシステムが異なる社会がどのように共存していくのか、環境とどう折り合いをつけるのか、人はその中でどうあるべきかなど考えさせられる。

この「風立ちぬ」は、災害や戦争といった状況に翻弄されながらも、近代化を追い求め、そこから生まれる悲劇や儚さと、更に、人を愛するということと、人の命の儚さも対比させた、どちらかというと文学作品のように感じる。

大震災や大戦の悲惨さというより、その中で人はどう生きたのか、どう愛したのか、そして、どう失ったのかが大切に描かれているように思うのだ。

利便性の陰で失われる温もりのある何か。

それに、高度に発達したからこそ、悲劇に結びつく技術ものもあるはずだ。

丹精を込めて作り上げたが、一機も帰ってこなかった飛行機(と命)。
技術の進歩の向いた先が、必ずしも幸福ではなかった。

先ごろ公開された「太陽の子」に通じるところがあるようにも思う。

そして、心から愛したのに失われた菜穂子の命。

がむしゃらに頑張って、一体自分は何を残したのか。

この作品は、時代とはそう云うものだと言っているようだし、どんなに近代化しても、抗えないものがあるのだと示唆しているようでもある。

しかし、決して人は無力ではないとも伝えているのだ。

荒井由実の「ひこうき雲」も、歌詞が物語にマッチして胸が熱くなる。

毎年のように大きな災害が繰り返され、その度に人々は立ち上がってきた。

日本はずっと戦争をしていないが、世界各地では紛争は無くなっていない。

現代にも通じる、時代とともにある人を見つめた秀作だと思う。

個人的には、庵野秀明さんの声が注目されたけど、瀧本美織さんの声にグッときた作品だった。

ワンコ