「今度も戦争だ! 映像・アクション・筋肉、全てがスケールダウンしたただの追加コンテンツ。」300 スリーハンドレッド 帝国の進撃 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
今度も戦争だ! 映像・アクション・筋肉、全てがスケールダウンしたただの追加コンテンツ。
古代ギリシアとペルシア帝国との戦争を描いた歴史劇『スリーハンドレッド』シリーズの第2作。
スパルタの王レオニダスが300人の精鋭と共に「灼熱の門」で死闘を繰り広げていた時、アテナイの英雄テミストクレスが率いるギリシア連合軍は南下してくるペルシアの大艦隊と対峙していた。圧倒的な艦数で攻め入るペルシア海軍を指揮するのは女将軍のアルテミシア。彼女はギリシアに深い恨みを抱いていた…。
前作の監督、ザック・スナイダーはその役職を降板。本作では脚本/製作を担当している。
ペルシア艦隊の指揮官、アルテミシアを演じるのは『007/カジノ・ロワイヤル』『ダーク・シャドウ』のエヴァ・グリーン。
原作となったのはフランク・ミラーによるヴィジュアル・ノベル「Xerxes」。これは映画公開時は未発表の作品だったのだが、公開から4年後の2018年に無事発売に至った。ただ邦訳は未だされていないようだ。
前作で描かれたのはレオニダス王率いる300人のスパルタ兵がペルシアの大軍勢を迎え撃った「テルモピュライの戦い」。本作では視点が変わり、その裏側で行われていたアテナイとペルシアによる「アルテミシオンの海戦」、そしてその後に行われた天下分け目の大戦「サラミスの海戦」が展開される。
主人公も、主体となる国家も変わるので直接の続編とは言い難いのだが、前作と本作を合わせて観ることで「ペルシア戦争」の全体像が見えてくることだろう。古代ギリシア時代の歴史を勉強したい人にはおすすめのシリーズである。
ザック・スナイダーから、CMディレクター出身のノーム・ムーロに監督が変更。とはいえ、作品の方向性は変わっておらず、グリーンスクリーンを用いたスタジオ撮影により紡ぎ出されるCG満載の神話的世界感、スローモーションを多用した過剰なアクション、手や首がポンポン飛ぶ血しぶきまみれのゴア表現など、引き続きニンニクマシマシ二郎系ギリシアラーメンを楽しむことが出来る。
た・だ!
似ているとはいえ、やはり本家ザックラーメンの胃もたれするような濃厚さまではコピー出来ていない。スープが全然シャバシャバで、一口だけでもう「これザックじゃないじゃん!」とバレてしまう。あのやりすぎな演出はザック・スナイダーのみが持つ作家性なのであって、いくら本人がプロデュースしているとはいえ、別人がやってしまうとそれはただの猿真似でしかない。真似はしているものの荒唐無稽さすら覚える映像の外連味は全く足りておらず、なんだかゲームのムービーシーンをだらっと見ているような気分になってしまった。本家ならもっとカラーグレーディングを弄るぞ!
前作は陸地での戦闘だった訳だが、本作では海の上が舞台。CGで海戦を描くことの困難さは容易に想像がつく。…つくのだが、それにしたって映像のクオリティがイマイチ。8年も前に公開されている前作の方が出来が良いってどゆこと⁉
バトルシーンの殺陣も迫力に欠ける。前作のバトルメンバーが世界最強のスパルタ軍だったのに対し、今回はアテナイの農民や詩人といった市民たち。そりゃあこの2者は戦闘力が全然違うわけで、今回のアクションがしょぼしょぼになっているというのは筋は通っているのだが、ヴィジュアル的にどちらが面白いのかは言うまでもない。
また、ほれぼれするような兵士たちの肉体美も今回は控えめ。テミストクレスを演じたサリバン・ステイプルトンさんの筋肉は確かに素晴らしいが、ジェラルト・バトラーの匂い立つようなフェロモンと比べてしまうと…。
フリークスだらけだったペルシア軍もすっかり寂しくなってしまった。前作ではペルシア人の描き方についてイランからクレームがついたらしいが、それを受けて今作では人種差別的にならないよう最大限の配慮をしたことが窺える。その姿勢は正しいが、それで映画のパワーがダウンしてしまう様では本末転倒である。
ヴィジュアル命だった前作。しかし、今作ではあらゆる面でその視覚的なショック要素が減退してしまっている。これじゃあなぜ8年も経ってからわざわざ続編を作ったのかまったくもってわからない。8年の間にCG技術はグッと上がっているはずなのだから、その年月の重みを感じられる驚異の映像体験を観客に提供してくれっ!!
正直不満点だらけの映画だったのだが、唯一良かったのはエヴァ・グリーンの存在感。最恐の女剣士というザ・漫画なキャラクターを生き生きと演じるその姿は可憐かつ勇壮。
脱ぎっぷりも潔く、テミストクレスとの首絞めファック・デスマッチが本作最大の見どころ。ここ、あまりにも唐突なうえヤるだけヤッて同盟を断るテミストクレスが最低すぎてめっちゃ笑ったんだけど、とてもエロいことは間違いない。良きかな良きかな😍
ちなみに、エヴァの吹き替えを務めた朴璐美さんとテミストクレスの吹き替えを務めた山路和弘さんはこの後に結婚することになる。まさか本作の首絞めファックが馴れ初めっ⁉
カナダの日刊紙「グローブ・アンド・メール」は本作を「テレビゲームの追加コンテンツ」と評したそうだが、この言葉が本作を的確に言い表している。この続編のせいでシリーズ全体が台無しになった、とかそんなことはないのだが、まあでも別に無くっても困らないかな…。
どうやらザックは本作から150年後の、マケドニアの大王アレクサンドロス3世によるペルシア征服に焦点を当てたシリーズ第3作を企画しているようである。ワーナーは乗り気ではないようだが、ザックが監督をしてくれるなら絶対観に行く。だからその企画、ぜひとも形にしてくれ!!