「牙が抜けた木村大作」春を背負って 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
牙が抜けた木村大作
名カメラマン・木村大作による「剣岳 点の記」に続く監督2作目。
「剣岳〜」が非常に良かったので、今回も期待していた。
厳格な父に反発し東京で金融会社に勤める亨は、父の急死を知らされ帰省する。父が営んでいた山小屋を訪れ、父の仕事を継ぐ決意を固める…。
冒頭の金融会社勤務時のエピソードは驚くほどつまらない。主人公同様、心ここにあらず。
帰省してからが見所。
まず、立山連峰の美しく雄大な映像の数々。
これだけでも劇場で観たかった。
あの鶴の群れがエベレストを越えようとするシーンなんて本当にCGじゃないよね!?
木村大作のこだわりの映像美が堪能出来る。
馴れない山小屋の仕事に悪戦苦闘の日々。
そんな亨を支えるのは、愛やゴロさんら父と親しい人々。
大自然に抱かれた人と人の交流を温かく描く。
結果的に言えば悪くはない映画ではある。
こういうハートフルな作品は好きだし、松山ケンイチ、蒼井優、豊川悦司、小林薫、檀ふみら挙げたらキリがないほど多彩な顔触れの実力派俳優たちによるアンサンブルも注目。山崎まさよしの主題歌も余韻が残る。
だけど…
腑に落ちない点やパンチが足りないのもまた事実。
多くの方が指摘しているように、亨がエリートの道を捨ててまで父の仕事を継ぐに至った心情の描かれ方が浅いのだ。
山小屋を訪れ、父の山と山小屋に対する思いを知り心動かされ…というのは分かるのだが、あっさり過ぎる。それをこれまたあっさり承諾する会社の上司も…。
それから、あんな標高の高い所で携帯って使えるのかな…? トランシーバーならまだしも…。
そして一番違和感を感じたのは、これが木村大作の作風か?
映像的には間違いはない。
しかし、全体的に単調で大人し過ぎる。
例えば、「八甲田山」のような映像から伝わる凄み、「剣岳〜」のような苦行と言われた信念…それら野心的なインパクトは何処に行ったのか。
まるで山田洋次が山を舞台にした映画を撮ったような、さらに言えば「北の国から」を見ているようだ。良くも悪くも、古臭い単調な作風と演出が拍車をかけてしまっている。
何度も言うが、悪くはない。悪くはないが…
木村大作監督3作目は、圧倒されるような野心作を見たい。