「舞台は山脈。ドラマは平地。」春を背負って 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
舞台は山脈。ドラマは平地。
御年75歳のカメラマン、木村大作の監督作品2作目。
父の意志を継いで山小屋を営むことを決めた青年、
そして同じく山に魅せられた人々の1年間を描くドラマ。
ネタバレというか、
初めに言っておきますと、酷評レビューです。
本作を気に入っているという方は
「生意気書きやがってからに」くらいの
感じでテキトーに読み飛ばしてください。
.
.
.
まずもって木村大作の撮影作品をそんなに観ていない
自分は(『八甲田山』『劔岳 点の記』『北のカナリア
たち』くらい)、この方に思い入れがある訳でもない。
というか、ニガテな方だと思う。
『劔岳~』は劇場で観たが、イマイチだった印象。
自然風景は確かに綺麗なのだけど、セット撮影と
思しい室内でのシーンは音響に違和感を覚えた上、
同じ人間が撮ったと思えないほど安っぽく見えたし、
何よりも書き割りみたいに平板なセリフやドラマに
白けてしまった記憶がある。
そういう向きからすると本作も、『劔岳~』から
あまり大きく変わった印象は無かった。
前述のセット撮影に関する点は気にならなかったものの、
印象付けたいのであろうセリフのしつこさや
役者の熱演が空回りする薄っぺらいドラマのために
淡々とした気持ちでの鑑賞に終始した。
.
.
.
山小屋経営に関して素人の主人公が、
苦難を乗り越え、雄大な山の魅力に気付き、
自然の中で生きることに喜びを見出だす――
この映画は美しく移り行く四季の風景を通して
そんなドラマを描きたかったんだろう。
だが、大した苦悩も感じられずサクサク成長する主人公
や周囲の人々を応援したいという気持ちにならないし、
いくら風景が美しく見事に撮影されていても、
現実味を感じさせない平板なセリフや
(断っておくが作劇的なセリフの
言い回しや演技は問題視していない)
突拍子もない演出が画面から飛び出す度、
映画への没入感はもとより、登場人物達への
感情移入の念も断ち切られてしまう。
ラスト近く、「きっと帰ってくる」と話してる最中に
トヨエツが鼻歌混じりに戻ってきたシーンには
耳と目を疑ったし、その後の“ぐるぐる”シーン
には、はっきり言って失笑した。
.
.
.
75歳にして監督2作目を作り上げた監督の
チャレンジ精神には敬意の念を覚えるし、
監督業の難しさを大して知らない人間のくせに
随分酷なことを書いていると自分でも思う。
何より、過酷な撮影に耐えて本作を作り上げた
スタッフ一同に対しては本当に申し訳ない。
だが、やっぱりこの映画は好きになれない。
むしろ、というよりも、だからこそ、「スタッフの
努力をムダにするような仕上げ方するなよ」
と言いたくなる。
雰囲気が古臭いかどうかは欠点とは思わない。
古臭かろうがピカピカの新作だろうが、優れた映画は
どんな時代の人の心も揺り動かす何かを有していると思う。
僕の場合は、この映画にはそれが殆ど感じられなかった。
山岳での撮影に尽力したスタッフを
労う意味を込めて、判定0.5プラス。
〈2014.06.24鑑賞〉