「素晴らしい一本だったな」スタンリーのお弁当箱 ハチミツ舐太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしい一本だったな
インド映画というと、歌って踊って底抜けに楽しい。
ってイメージを持っていて、実際今まで観てきた映画は、その通りだった。
この映画は踊るところはほぼ無い上、スターも出ないし、何より落ち着いた雰囲気、限りない日常感は、有名なインド映画とは違う雰囲気を、醸し出しており、ちょっと違うぞと感じさせる。
国は違うが、「友達の家はどこ」を思い出せた。
とは言え、歌をうまく使っての説明、またコンサートの練習シーンは、躍動感がありスタンリーが輝いて見えた。
この部分は流石インドだなと関心する。
スタンリーの置かれている状況は、かなりヒドく、作り方よによっては、悲痛な感じを出せるのだが、決して悲観させない演出や、スタンリーの言動は心を打たれる。
彼は、とても良い奴で、愛される人間であるだけに、観ていて切なくなった。
ちょっと大人過ぎている気はあるが、こうしないと彼が生きてゆけない、という現実を突きつけられるようで・・・。
ラストの方で、お弁当を持ってゆくスタンリーの姿は、本当に晴れ晴れとしており、実に素晴らしいシーンだ。
そのお弁当を、様々な人に分ける姿は、眩し過ぎて・・・。
彼は周りの人に助けられており、そのお返しをしたいという気持ちなのだろうが、これはもう何といって良いのか分からなくなる。
彼を良く思わずつらく当たった国語の先生へも、お弁当をあげると、スタンリーには言ってしまう。
その先生は、恥ずかしさのあまり、彼の前から去ってしまうのだが・・。
何より、そのお弁当は、どのように作られたのかを知ると、もうどうして良いのか分からなくなる位、心が震える。
スタンリーは、出来過ぎた人、の印象は受ける。
映画の終わりにインド社会の抱える、就労児童の存在という問題について言及されるが、彼の存在はその問題に対する、強烈な訴えのように感じる。
お弁当というある種普遍的な要素を上手く使い、過酷な問題を優しく、でも強烈に訴えかけてくる映画として、作る監督の手腕は素晴らしい。
これが初監督作品とは思えない。
次回作を楽しみにしてしまう監督だ。