約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯のレビュー・感想・評価
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『眠る村』も楽しみ
一度は犯行を自白するものの「警察に自白を強要された」と主張して一審では無罪判決を受けるも、二審で死刑判決となり、1972年に最高裁で死刑が確定。戦後唯一の無罪からの逆転死刑判決となった奥西勝。再審請求すれども頑なに拒み続ける司法。
「岸壁の母」を歌いながら川辺を散歩する奥西(山本太郎)と妻千恵子と息子と娘。若き日の奥西勝を演ずるのは山本太郎だ。2012年、そんな事件当時の夢を見る奥西勝(仲代達矢)の名古屋拘置所の独房生活(死刑囚になると刑務所から拘置所へ)。死刑執行は当日朝に言い渡されるので、毎朝刑務官が通るたびに手の震えが起きる。
1976年、拘置所には家族以外では初めて人権団体の川村富佐吉が面会に来た。個人で何度も再審請求を出していた奥西について調べ始めていたのだった。まずは殺人動機が単純に三角関係の清算だなんておかしすぎる点。物的証拠が何もないことを理由に運動を始めたのだ。その後は、ぶどう酒の王冠についた歯形認定が怪しい件、農薬ニッカリンTの色は赤なのにワインは白だった件、酒屋→懇親会会長宅→公民館へとぶどう酒が運ばれた時間の証言が自白後に覆された件等々、自白の強要だった有罪判決が明らかにされていく。
ドキュメンタリー部分が大半を占める作品ではあるが、司法ドキュメンタリー番組に強い東海テレビのインタビューが鋭いのだ。中でもユニークで素晴らしいと感じたのは、元裁判官へのインタビューで「エリート裁判官ほど再審請求を却下する傾向にある」という裁判官の矜持をも皮肉ってるシーンだ。
新たに再審請求するときには反証材料を探さなければならないのですが、科学技術も進歩し、ニッカリンについても別の農薬だった可能性が出てきた。さらに王冠の歯形も全国の王冠を集めて噛んでも証拠品のような跡がつかないことがわかる。そして再審決定の知らせもつかの間、門野博裁判長により再審開始決定を取り消す判断・・・このときの報道陣、支援者の嘆きが胸を打つ。2010年には息子も死んでしまうが、さらにこれでもかこれでもかと“不当決定”の文字が裁判所前に飛び込んでくる。
奥西さんは映画公開後の2015年に亡くなっているが、とにかく司法の傲慢な態度に憤りを感じる内容になっている。
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