「ラストのようなたたみ掛けるパワフルさやパンチは今ひとつに感じるのです。それは何故か?」謝罪の王様 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
ラストのようなたたみ掛けるパワフルさやパンチは今ひとつに感じるのです。それは何故か?
水田、宮藤、阿部のヒットメーカートリオが復活。阿部サダヲにあて書された脚本を得て、水を得た魚のように活き活きと楽しそうに謝罪師を演じていく阿部サダオのノリが全編を通じて圧倒していました。
謝罪師の活躍を全部で6つのエピソード形式で紹介。オムニバムのように見えて、実は細かく繋がっていくシナリオはなかなか巧み。謝罪師というフィクションの職業も阿部が演じると、アリかもしれないと思えてくるから不思議です。まして個人の相談から、次第に芸能界を揺るがす事件へと大きくなり、果ては国家存亡の危機を解消するための謝罪まで関わってしまうなんて、大胆な飛躍を見せても、それなりの納得しうる説明をつけてしまいました。
『なくもんか』とか三谷幸喜作品のラストのようなたたみ掛けるパワフルさやパンチは今ひとつに感じるのです。決してつまらないというのではありません。試写会場でも爆笑の渦が巻き起こっていました。何だろうかなと自問自答していたら、ふと謝罪師の仕事ぶりが全部順調すぎるという疑問にぶち当たりました。
だいたい阿部のキャラクターはいじられるから面白いのです。けれども本作の謝罪師・黒島譲は、他人をいじるばかり。しかも、それらが全て結果的にうまくいくので、墓穴を掘ることがないのです。やっぱり観客は、阿部が追い詰められて、仕事ではなく本当に謝罪しなければいけなくなって、さてどうする?というところを期待しているのではないでしょうか。
もう一つは、土下座以上の謝罪を見せてやると、黒島は息巻くのですが、結局ハッタリ倒れ(主人公が台詞でそんなのないと告白してしまう)。アッと言う謝罪の仕方を見せるのかと思いきや、『お国柄の違い』でごまかしたキライがあります。確かに土下座が最大の侮辱で、全然謝罪が通じないというお国柄があったら面白いかもしれません。でも、それはそれとして観客をアッと言わせる謝罪を見せつけて欲しかったです。
『なくもんか』と比べると、今回はクドカンは結構悩んで脚本を作り上げたと思います。何しろテーマが謝罪という漠然としてものですから。くぐればお気づきとは思いますが、謝罪男をテーマにした漫画が存在し、クドカンのパクリ疑惑がネットで囁かれているようです。パクリの真偽は分かりませんが、『なくもんか』のようなノリを感じないのは、考えすぎていることと、笑わしてやろうと仕掛けるあまりに、ノリを悪くしているところがあるのではないでしょうか。
ところで本作の最大の見せ場は、何とエンドロールなんです。今までに見たことのない新しさ。何が凄いかっていうと、世界初の謝罪ダンスを披露していることです。簡単なストーリー仕立てで、イギリスらしい学校の女子寮の女の子たちがシカトしてしまったお詫びをダンスで表現するというもの。一方女子寮に入れない男子たちは、どうにかして女の子を虜にできないかと謝罪師の黒島に助けを求めるのです。
黒島はヒップホップMCのVERBALを連れ、女子寮の屋上から謝罪ラップで謝罪の方法を男の子たちに伝授するというもの。この謝罪ダンスこそ、土下座を超えるものとしてクドカンが仕掛けたものと思います。
このダンスシーンの出演者も超豪華。音楽は、E-girlsが担当。音楽だけでなくシーンの随所にメンバーたちがカメオ出演しています。また、EXILEからは、MATSU、KENCHI、TETSUYA、NAOTO、NAOKIが参加、特にMATSUは本名の松本利夫として、「CASE6」に出演。渋い演技で、ドタバタをきっちり締めてくれました。
☆検索してみてください。
E-girls / 「ごめんなさいのKissing You」 ~Short ver.~
さて、長くなったのでストーリーの解説は省きますが、「CASE1」から登場する帰国女子の倉持典子を演じる井上真央のコメディエンヌぶりが、板についていました。本作に登場する謝罪師の依頼者はみんなジコチュウでKYで、口が裂けても謝罪しないタイプばかり。その代表格としてトップバッターに登場する彼女は、ヤクザの外車にぶつけても、全然動じず、自分は帰国子女だからという理由で謝罪を拒否してしまう、恐れを知らないバカだったのです。そんなバカッぷりが素晴らしくて、井上真央が演じていることすら気づきませんでした。
もう一つ傑作なのが、「CASE3」で登場する大物俳優・南部哲朗の謝罪会見のシーン。何しろ息子がやらかした傷害事件の謝罪なので、全く責任感を感じていないのです。黒島の突っ込みに渋々会見に臨みますが、演技がバレバレなオーバーアクションとそれを妻に咎められて後に見せる、全く気を抜いてしまったもぬけの殻のような謝罪ぶりには、爆笑してしまいました。南部を演じる高橋克実もなかなか凄い演技力です。
そして、最後にマンタン王国の王族ばかりか国民まで怒らせてしまい、謝罪に向かった黒島と総理大臣が見いだした究極の謝罪は、きっとやみつきになるくらいのインパクトがありましたから、公開をたのしみにしていてください。