「鬱陶しい老人の見せ方がリアル」凶悪 アルバータさんの映画レビュー(感想・評価)
鬱陶しい老人の見せ方がリアル
池脇千鶴演じる妻。
自分がボケていることに気づかず、無罪顔でニコニコしている老人(しかも自分の母でもない)の世話。誰にも感謝されず、夫も助けてくれない。
借金に苦しむ家族。
若い頃勝手に生きてきた父の多額の借金を返さなければいけない息子(娘?)夫婦。最後の希望で父に保険をかけて死を待っていたものの、父は病気をケロッと直しては家に無事帰還。
自分の人生の邪魔をしてくる老人たちの「死」が希望となってしまった人々につけ込んでは、殺しで荒稼ぎする先生と須藤。
「長生き」という言葉はいつからネガティブな意味合いを含むようになったのだろうか。
弱い者を見るとイジメたくなる人間の心理傾向を観客が見つけてしまうように、老人たちがなるべく弱く、だらしなく、汚く、鬱陶しく描かれている。むしろ凶悪犯である先生が老人たちの中で一番魅力的に見えてしまう恐ろしさ。
しかし、先生たちに酒を無理に飲まされ殺されようとするなか、お爺さんが「家に返りたい。生きたい。ばあさんに会いたい。」と嘆いた残酷なシーンが、心を正気に戻す。どんな老人にも若い時代があって、愛する人がいて、かけがえのない人生があるのだ。
主人公もそんな正義感からか、または母の老衰からの現実逃避か、もしくはそんな母に対してもまだ抱く息子としての想いを理解してくれない妻に対する反抗からか、死刑囚須藤の話す遠い世界の悪に引きつけられ、呑み込まれていく。
高齢化問題を糸口に正体をチラリチラリと垣間見せる全体像の分からない複雑な問題。それに対して成すすべのない無力感。
その答えを教えてくれるわけでもなく、ただその問題をドサッと置いて観客を取り残す。そんな映画。
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