「本当に大切なもの」捨てがたき人々 虎吉郎さんの映画レビュー(感想・評価)
本当に大切なもの
生きるのに飽きた。
生きている意味がない。
主人公である狸穴勇介の言葉だ。
冒頭のシーンで語りかけるように言い、ラストでは叫ぶように言う。
出てくるのはセックスしか頭にない主人公の勇介に、勇介に蹂躙されてもなお通い続ける京子という女。新婚の事務員と不倫する社長でもある新興宗教幹部。
最低の人間のくだらない話と片付けるのは簡単だ。
それこそ原作者であるジョージ秋山の思う壺だ。鬼才ジョージ秋山は、この物語をアンチテーゼとして投げかけている。
中盤で、ストーリーは一挙に十年後に飛ぶ。十年経っても、勇介は生きる意味を見つけられないままもがき続けている。
結局は回答が出なかった。
馬鹿を言ってはいけない。
その十年間、勇介は生きる意味を見つけられなくても、毎日を精一杯生きてきた。
それこそが、この映画のテーマだ。
大切なのは、生きる意味を見つけることではなく、生き続けること。
どんなに這いつくばっていようと、生き続けることへの賛歌。どん底で、それでも生きようとする者へのエール。
お為ごかしの
ヒューマンドラマなんて及びもつかないほど、生きとし生けるものへ優しさと愛情に溢れた物語なのだ。
素晴らしい作品を世に送り出した人々に、壮大なテーマに真っ向から取り組んでくれたキャストやスタッフの方々に感謝します。
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