「こんな大事件なのに、アメリカ軍が軍隊として一度も登場しないという不思議な作品」レッド・ドーン 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
こんな大事件なのに、アメリカ軍が軍隊として一度も登場しないという不思議な作品
冒頭、アメリカ西海岸・ワシントン州スポケーン市の街の空一面に戦闘機と空挺部隊が展開し、降ってくるというシュールな光景からこの作品は始まります。主人公たちが、あれは何かと様子を眺めているそばから、きなり襲撃を受けてしまいます。あっけに囚われていると、襲ってくる兵士たちが朝鮮語で、警告しているのが聞こえてきました。まさかと思いつつ、逃げ込んだ山小屋でテレビをつけてみると、そのまさかの北朝鮮に、なんとアメリカが占領されていたのです。
山小屋に逃げ込んだ青年たちは、休暇で帰郷していた海兵隊員ジェドを中心に、ゲリラ戦法で、北朝鮮軍に奪われた自由を取り戻す闘いに決起するという話でした。
そもそも広大な国土を持つアメリカの地方都市まで、北朝鮮のパラシュート部隊が空を覆い尽くすような人海戦術は、物理的に困難なはずです。飛行機の継続飛行距離からいっても、空母に搭載してこなければならず、その途中には、世界一の第7艦隊が待ち受けていて、これを殲滅しない限りは、本土決戦なんてあり得ません。
なにか「秘策」があってあり得ないことを、どういう風にあり得るようにひっくり返しのたか、鑑賞前はそこに期待していたのです。でも、見事に期待は裏切られました。理由の一つは中東紛争の激化で、本土の沿岸警備が手薄になったというナレーションでごまかし、もう一つはロシアが支援したからだというのです。北朝鮮をロシアが支援するなんて、プーチンが認めるわけがありません。万が一北朝鮮を支援する国家ということなら、中国のほうが現実的だったでしょう。でも、ハリウッド映画にとって、中国は映画市場で無視できぬ、大のお得意先。いたずらに刺激したくないという大人の対応が、中国をロシアに変えさせてしまったのでしょうか。
そもそも本作品は、1984年の『若き勇者たち』のリメイク。オリジナルの作られた時期は、ソ連が健在で、キューバ、ニカラグアと組んで、アメリカに侵攻してくる内容は、それなりにリアルティを感じさせてくれたことでしょう。しかし時代が変化して、ソ連がロシアに変わってしまったのに、そのまま踏襲したのでは、辻褄が合わなくなってきます。 しかも、キューバ抜きで、アジアから海を渡って米本土の占領なんて、不可能でしょう。
けれども本作の楽しみ方は、設定のリアルティさを求めるなんて論外。『ボーン・アルティメイタム』や『スパイダーマン3』など著名作品のスタントコーディネーターやアクション監督を担当してきたブラッドリーが初監督するからには、とにかく市街地でのゲリラ戦を素材にど派手なアクションシーンを描くことがなりよりの目的だったです。そんな期待に応えて、随所に爆破シーンや銃撃シーンなど見せ場を作り、青年たちのゲリラ組織“ウルヴァリン”と北朝鮮軍とバトルをスリル満点に描きあげるのでした。
もう一つのテーマは、近年自信喪失気味のアメリカが自身を鼓舞するための愛国心増強のための作品でもあることです。戦場という非日常空間に放り出された青年たちははじめ戸惑うばかりでした。北朝鮮に寝返る奴も出てくる始末。それでも避難先の山小屋で、敵の襲撃に遭い、リーダー兄弟の父親がメンバーの見ている前で銃殺されたことから、全員が自分の大切な人々を守り祖国と自由を取り戻すため、徹底抗戦を決意するのです。
こういう設定は、今の平和ぼけしている日本に移して、中国に蹂躙される日本民族を救うため決起する若者たちのドラマを撮って欲しかったです。まぁ、そんな作品が皆無ではありません。昨年幸福の科学が公開した『ファイナル・ジャッジメント』なんて、脆そうなのですが、もっと本作のようにエンタティメントで、ドンパチやるような作品にして、いまの若者たちに、うかうかしていると映画のように中国に占領されてしまいますよというところを見せつけてやればいいのです。
ただねぇ、収容所に入れられている人達も入れば、普通に街を歩いている人もいて、メンバーも結構自由に市街地に潜伏できてしまうのは、どうかなぁ~って気になってしまいました。
だいたい、こんな大事件なのに、アメリカ軍が軍隊として一度も登場しないということがおかしいのです。全土でアメリカ軍+市民義勇軍と北朝鮮軍が戦っているはずなのに、描かれるのはもっぱら“ウルヴァリン”とスポケーン市地区の北朝鮮軍のみ。起こっていうる大規模な大戦の割には、スケールが小さすぎます。しかも、地区の司令官をやっつけて、彼らが使っているネットワークシステムの奪取に成功したら、もう勝利したのど同然の描かれよう。いくらアクションを見せるための作品とはいえ、もう少しリアルティにも気をつけて欲しかったです。
但し、本作のいい面を挙げるとしたら、リーダーのジョンの弟マットの成長ぶり。海兵隊員の兄の軍隊調の命令に、反発し、恋人を救いたいあまりに勝手に行動した結果、仲間内に犠牲者出てしまい、自分を責め悩んでしまうのです。
けれどもある事件が起こってジョンが指揮できなくなると、代わりにマットが指揮を交替し、新メンバーを教育して、“ウルヴァリン”を大きなゲリラ組織へと発展させるのです。マットが心境を変えることになった、ジョンと和解するシーンはなかなか泣かせるいいシーンでした。
主役のジョンに異変を起こしてしまう、何とも大胆な作品。アメリカが占領されるなんて、国力が没落していく予感からか、アメリカ国民の悲痛な叫びが聞こえてきそうな作品でした。